10年前は観客からバッシングも…大野拓朗が語った、デビューからアメリカ留学までの道のり

そして、僕たちは舞台に立っている。

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 ハリウッド進出を目標に精力的に活動し、7月に上演される音楽劇「クラウディア」では主演を務める俳優の大野拓朗さん。2010年に役者としての道を歩み始め、映画、ドラマ、舞台と順調にキャリアを築くなか単身アメリカに留学した彼に、役者としての情熱や苦労、ターニングポイントとなった出会い、そしてハリウッドを目指した理由を語ってもらった。
       
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芸能界に夢を見て入ったわけではないんです。

 最初は芸能界にまったく興味がなくて。だからきらびやかなこの世界に夢を見て憧れて入ったわけではないんです。俳優という仕事をさせていただくことになったきっかけも、「ミスター立教」でグランプリをいただいた流れで、「キャンパスター☆H50 with MEN’S NON-NO」という男子大学生のスターを決めるオーディションに出場したからです。
 最終決戦の合宿の演技レッスンで小学校の学芸会以来に芝居をしたら、すごく楽しかったうえに、グランプリをいただいて、2010年に俳優デビューして、この仕事を始めました。とは言え、最初のうちは、出来ることなんて何もないから大変でした。
 けど、僕はもともと好きなことを努力するのは苦にならないタイプで、努力そのものが楽しいから、ただただ無心に練習をし続けられるんです。サッカー少年だった小学生の頃は毎日黙々とリフティングの練習をしていましたし、バスケットボールをしていた頃も同じ。演技も、演じれば演じるほどスキルが上がっていくのがとにかく楽しくて、その感覚は今も変わりません。
 まさに、「好きこそものの上手なれ」で、芝居をしているときだけ、唯一幸せと生きがいを感じられる。これを越える趣味もないほどですが、それでも、壁にぶつかることもあります。そういうとき、僕はがんばる、努力する。悔しいから。そうするとね、必ずサポートしてくれる人が現れるんです。
 実は、歌が苦手で。初めてミュージカル「エリザベート」の舞台に立ったとき、お客に「下手クソ!」と言われたくらい。けど、ミュージカルが大好きだったから、五年間誰にも言わずにボイストレーニングと自主練を続けて、ミュージカルの世界に戻って、メインを演じさせていただけるようになって。真剣に真っ直ぐマジメだけが取り柄ですが、そういう風に生きてきて良かったです。

俳優は演じるとき、自分を捨てなければならない。

 俳優の船越英一郎ふなこしえいいちろうさんの教えで、デビューの頃から演じる役の履歴書を作っているのですが、今思えば最初のうちはなんとなく作っていて…。そんな僕のターニングポイントは、蜷川にながわ幸雄さん演出の舞台「ヴェニスの商人」に出演したことです。蜷川さんから芝居への向き合い方や役作りを一気に学んで、ニナガワカンパニーの皆さんから、その詳細な分析やアプローチを教わることで、ようやく僕なりの履歴書作りの土台が固まったんだと思います。欲を言うならば、男性役で蜷川さんにしごかれたかったですが、女性役でしごかれたから、その後のNHKのドラマ「ベビーシッター・ギン!」で主人公の女装した男性ベビーシッター・下落合ギンという役を演じられたので、感謝しかありません。そうそうギンちゃんを演じたときは、学生時代の友人から「拓朗が主役だから見ていたのに、全然出てこないじゃんって思っていたら、お前、あの主役だったのか!」って驚かれて(笑)。嬉しかったですねぇ。役者冥利みょうりに尽きます。今回出演する舞台「クラウディア」でも僕は、蜷川さんの作り上げてきた舞台のメッセージを込めたくて、和製シェイクスピアみたいな表現をできたらなと考えています。
 履歴書には、誕生日、血液型、兄弟構成、幼少期の性格、学生時代、趣味嗜好など、その役の人生すべてを書き込みます。台本を読み込みながら何度も軌道修正して、現場に入ったらまずは僕が考えてきた通りに演じてみて、もし演出家と方針が違ったらさらに、アップデートしていく。そのうちに、日頃の立ち居振る舞いから自然とその役そのものに変わっていくんです。
 そうやってその役になりきってしっかり演じられているときは悩まないから、アドリブもきくし、台詞回しにも迷いがない。他の役者さんの台詞を聞けば、僕の口から台詞が勝手に、イントネーションをつけて出てきます。リハーサルで、僕の捉え方と違う演技を相手がするときは、「あなたはそう演じますか、なら僕はこう演じますよ」と、相手に応じながら演じていくんです。受けの芝居の方が実は得意なのは、この役作りの仕方によるものなのかもしれませんね。
 俳優って、役を演じるときに、自分をだまさなきゃならないというか、捨てないといけない。僕は自己主張もそんなにありませんから、自分を捨てやすくて、役に染まりやすい。同時に、その役を、今の三十代の僕が演じるのなら、僕の三十年間の経験をその役の人生に投影しないと、演技そのものが上辺でしかなくなってしまう。だから、今、三十代になって、意見を言えるようにもなってきて、それは、僕の人生設計通りの人としての成長なのかもしれません。二十代は一生懸命突っ走る時期、三十代以降は自立した、自分の意思をもって人生を歩もうと決めていたので。

自分自身に興味はないし、僕は僕が好きじゃない。

 単身ニューヨーク留学を決めたのは、僕自身いつ命を落とすか分からないならば、いつ死んでも後悔しない人生を送りたいと強く思ったからです。それは二十代半ばから後半にかけて、身近な、僕の人生に影響を与えてくれた人が立て続けに若くして亡くなってしまったからでもあるのですが、人生ははかないですよね。
 その上で三十代を迎えるにあたって、原点回帰というか、僕自身を振り返ったら、僕のモチベーションというか生きがいって、恩返し、それしかありませんでした。
 自分自身に興味はないし、そもそも僕は僕が好きじゃない。だから僕自身のためには、生きていけない。支えてくれる人がいるから今の自分がいるわけで。身近な人、かわいがってくれる人、応援してくれる人。そんな皆さんが、期待を寄せてくださっていることに感謝しながら、期待以上のことを返して、笑顔になって欲しい、楽しんで欲しい、恩返しをしながら生きていきたい。それだけなんです。
 そんな僕は、俳優、広く言うとエンタテインメントの仕事をしているのだから、この先の未来、かかわってくれた全ての人への一番の恩返しになるのは、エンタテインメントの最高峰であるハリウッド、そこでスターになることかなと思い至ったんです。そうなれば、みんなが僕とかかわってきたことを自慢できるかなって。それに子どもの頃からハリウッド映画ばかりを見て育ったのに、ハリウッドに挑戦しないと絶対に後悔するだろうし、歳をとったら腰が重くなってしまうかもしれない、若いうちに英語力も極めたい。だから、ニューヨークに留学したんです。不安なんて、だから何一つありませんでした。

僕は、運と縁の神様に寵愛されている自信があります。

 とにかくまずは、ハリウッドでのメインキャストが目標! それが自分の人生のゴールかなって思っているんですが、もし達成できたら違う目標がどんどん出てくるのでしょうか。人間って、欲深いですよね。
 すべては、芝居に出会えたからで。出会えて本当に良かった。そうでなかったら退屈な人生だっただろうな。それに、僕はまちがいなく豪運の持ち主。運と縁の神様に寵愛ちょうあいされている自信があります。だから、僕をこういう風に育ててくれた周りの人々と環境に感謝するばかりです。けど、ギャンブルはめっぽう弱くて(苦笑)。好きじゃないからなんだろうなぁ。
(スタイリスト:栃木雅広)

 

Daiwa House Special音楽劇『クラウディア』Produce by 地球ゴージャス
東京公演:2022年7月4日(月)~24日(日)東京建物Brillia HALL
大阪公演:2022年7月29日(金)~31日(日)森ノ宮ピロティホール
出演:大野拓朗 甲斐翔真(Wキャスト)/廣瀬友祐 小栗基裕(Wキャスト)/田村芽実 門山葉子(Wキャスト)/美弥るりか/上山竜治 中河内雅貴(Wキャスト)/平間壮一 新原泰佑(Wキャスト)/湖月わたる
脚本・演出・振付:岸谷五朗
主題歌:サザンオールスターズ「FRIENDS」(タイシタレーベル/ビクターエンタテインメント)