いつまで

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「場久は、どこにいるの? 火幻先生は、どうやって、どっちへ行ったの?」
 以津真天は、益々楽しげになった。
 すると、遠慮もない大声が、闇に響いたのだろう。どこかで誰かに伝わったのか、戸惑うようなささやきが、遠くから聞こえてきた気がした。
「あのな、若だんな。さっき言っただろう? 悪夢は、場久が仕切ってる場なんだよ」
 だから場久を捕らえ、その夢に閉じ込める事で、以津真天は悪夢を勝手に行き来している。しかしだ。
「この私が夢を作って、悪夢を支えてる訳じゃない。夢内の事など、実はさっぱり分からないんだ」
 だから、場久はどこにいると言われても、以津真天には答えられない。
「もう一度悪夢の中で、場久がいる場所へ行けるか、自信がないな」
 その事も正直に言ったが、火幻は命がけで場久を救いに向かったのだ。だから悪夢に入りこんだ火幻が、今、どうなっているかも、見当すらつかないという。
「下手すりゃ火幻は、夢の内から転げ落ちて、とんでもない所へ現れてるかもな。このまま一生会えなくても、私は驚かないね」
 恐ろしい事を話しつつ、しかし己が困らない以津真天は、落ち着いたものであった。
 だがこの時、先程聞いた戸惑うようなささやきが、もっとはっきり聞こえてきた。そしてそれは、近づいてきていたのだ。
(あれ? もしかしてあの声、守狐達の声だったのかしら)
 多くが稲荷神社に集っているから、中の誰かが、離れの異変に気がついたのかもしれない。
(化け狐達、離れに来るかな。夢に捕らわれている私を、起こすかもしれないね)
 そうすれば若だんなは、以津真天の悪夢から、離れる事が出来ると思う。
 すると、以津真天も声に気づいたようで、急に苛立ってきた。
「おや、嫌だ。誰かが私の夢に、目を向けてるぞ。悪夢は今、私の物なのに。妖だな、ああ嫌だ」
 東の者達は無礼だと、以津真天は言い切った。そして更に、その中で一番勘弁ならないのは、若だんなだと言い出したのだ。
「きゅんべ?」
「お前さんが、火幻を迎え入れたりしなきゃ、私は今みたいな、みじめな気持ちにはならなかったんだっ」
 いやそもそも、長崎屋の離れが悪いと、以津真天は続ける。人と妖は、交わって暮らさないもので、西ではずっと長きに渡って、そうであった。なのにだ。
「なんでこの離れには、妖が集ってるんだ? どうして昼間っから、当然のような顔して、東の妖どもは暮らしてるんだ?」
 何でだ?
 何故、西とは違う?