家族が突然姿を消したら……書店員から「めちゃくちゃ泣いた!」の声。本屋大賞ノミネート作家・寺地はるな、いま話題の1冊!

感涙! 最旬作家・寺地はるな特集

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「願いと救いと物語」 「未来はあると顔をあげて読み終えることができる」―。
全国の書店員が涙した寺地はるなさんの小説『希望のゆくえ』(新潮文庫)が、売れている。2月末に発売された本書は、3月中旬に重版決定。共感の輪が広がっている。
本作は、突然失踪した希望のぞむの行方を兄の誠実まさみが追う中で、誰からも愛されていた弟の誰も知らない秘密を辿る物語。傷を抱えたまま大人になった兄弟を通し、さまざまな家族の歪さが垣間見える。
新潮文庫版には、最終章「光」が加筆されている。寺地さんはどのような想いで、新たに章を書き下ろしたのか。登場人物の「未来を信じられるようになった」という寺地さんの心境の変化に迫った特別インタビュー。

 

希望のゆくえ

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  ―文庫版『希望きぼうのゆくえ』が2月28日に発売されました。おめでとうございます。単行本の刊行は2020年ですが、改めてお読みになって、いかがでしたか。

 単行本を出版した時、一番好きと言ってくださる方もたくさんいらしたのですが、「暗い」「重い」という感想も多かったんです。当時、検証をしたわけでもないのですが、その想いは抱えたまま、文庫版のゲラを読みました。そして、あの頃の私は、感想にあったような人間の醜い面ばかりにフォーカスする、意地悪な視点で書いたわけではなく、キレイではない気持ちを抱いていていいんだよと言いたかったんだろうなと、感じました。
 人間関係をうまく進めるために、相手の望んでいる言葉を使うことってありますよね。私にもそういう時期がありました。けど、その場をうまく丸く収めるために取り繕ってばかりいると、いつか自分の意見がなくなってしまうよと、伝えたかったんです。

 ―寺地さんのメッセージをより伝えるために、文庫版『希望のゆくえ』では本編のラストに変化を加えられたのでしょうか。
 
 文庫版のラストも、単行本の作業中になんとなく浮かんではいました。ただそれが、読後感を良くしたいという忖度が故に生まれたのか、私が本当に書きたい結末なのか、最後の最後まで判断できませんでした。
 私は、物語であっても、私自身が信じられないこと、起こり得ると私が本気で思えないことは書いてはいけないと、読者の方に媚びてはいけないと、考えていています。だから、単行本ではあのラストが精一杯だったんです。
 けど、私自身の小説を書く力も上がっているであろう今ならば、単行本のラストの先にある場所まで、主人公たちを連れていけると思えて。ある台詞を変えただけなのでラストの筋そのものが変わったわけではないのですが、そこに辿り着けて、本当によかったです。