三浦友和×白川道・対談 “作家”と“主人公”の距離 白川道『神様が降りてくる』刊行記念

対談・鼎談

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神様が降りてくる

『神様が降りてくる』

著者
白川 道 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103994039
発売日
2015/03/20
価格
2,268円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

白川道『神様が降りてくる』刊行記念対談 三浦友和×白川道/“作家”と“主人公”の距離

 メールデビューのお相手

三浦 ある夜、なじみのマスターから「白川道さんを知っていますか?」と訊ねられました。「もちろん、お名前は」と返事をしたところ「実は白川さんも、常連なんですよ」と。よく行く飲み屋が一緒だったんですね。しばらくしたら、白川さんの作品が原作のドラマ『最も遠い銀河』(テレビ朝日系)に出演することになって、打ち上げの席で初めてお目にかかりました。

白川 そのときに、もしよかったらこれを映像化してみませんかと、『終着駅』(新潮文庫)をお勧めしたんです。

三浦 読んでみて、これは面白い、絶対に映画にしたいなと思いました。それ以降、何度か酒席をご一緒する機会もありまして。

白川 メールデビューは、三浦さんに導いていただいたんです。便利ですよ、と。

三浦 一度覚えると、簡単でしょう?

白川 使いこなせるようになるまでは面倒くさかったですけど、確かに便利ですよね。こんな時間に電話をかけたら迷惑かな?と気にする必要もないし。いまなんとかがんばってメールでやりとりしているのは、三浦さんとうちのおっかあの二人だけなんですが(笑)。ただ、作品の中には携帯電話やLINEは出したくないんです。そういったツールが苦手だということも理由のひとつですけど、出すことによって小説が面白くなくなるような気がするんです。

三浦 携帯電話を持っているのが当然の時代になって、ミステリーは書きにくくなったでしょうね。メールを送っておけば、こんな事件は起きなかったのに……、と思ってしまうことがあります。

白川 僕は小説を書くときに、時代設定を少し昔に持っていくことが多いんです。

 フィクションだからこそ

三浦 『神様が降りてくる』は二〇〇〇年あたりが舞台の話ですよね。主人公の榊(さかき)(作家)が刑務所に入っていたのが八〇年代でした。

白川 「小説新潮」での連載が始まる前に編集者から「刑務所の中のことを書いてください」といわれたんです。収監されていた横須賀刑務所に取材に行って、所内を見学しました。自分が入っていた頃にもいた刑務官とばったり出くわしたり、所長室にも通されたり。ここは受刑者たちが役務をする場所ですとか、独房です、といろいろと説明してくださったんですが「申し訳ない。知っています」と胸の中では思っていました。

三浦 入っていたのは、小説で描かれているような時代だったんですか?

白川 だいたい同じくらいですね。出てきたのは夏場でした。あまり生々しいことを思い出させないでくださいよ(笑)。

三浦 すいません(笑)。そうすると、榊と白川さんの年齢も一緒くらいになるんですね。ご本人を知っているからなんでしょうが、どうしても榊と白川さんがダブって見えるんですよ。作中で描かれている五十代の榊をイメージしようとすると、現在の白川さんが浮かんでくる。たとえば美しいラブシーンのときに、ふっと白川さんの笑顔を思い出し、気恥ずかしくなってしまって(笑)。

白川 『神様が降りてくる』を書き始めた頃は、刑務所内でのことも含めて自分の体験をどんどん出していこうと考えていました。毛色の変わった純文学的なものを、と意気込んでいたんですね。ところが、いかんせん僕にはそちら側の資質がない。途中からエンターテインメントに徹しようと舵を切ったんです。単行本にまとめるときには、連載時にあった刑務所内のシーンをたくさんカットしました。

三浦 途中で明かされる敵役の親玉が、榊と里奈(りな)(今作のヒロイン。榊が収監されていたときに知り合った米兵フィルの娘)をいつ襲撃してくるのか。緊張感を保ったままずっと進んでいって、あのラスト。強烈な衝撃を受けました。まったく想像していなかったので。本当に……。白川さんの小説には、榊と里奈みたいに五十代くらいの男性と若い女性とが恋に落ちるという設定が多いですよね。男性も女性も、実際にいたらすごいよな、と感嘆するような魅力溢れる造形で。

白川 小説には自分が憧れるような女性しか書きたくないんですよ。男もそうです。普通の男が普通の女性と恋に落ちるような小説よりも、フィクションの中にしか存在し得ないような魅力的な人間が出てくる物語を書きたいんです。男が憧れるような男と、現実にはいないだろうというくらい神々しい女性が、運命的な出会いを果たし、望まぬ何かに巻き込まれる。そういうストーリーの方が、読者も喜んでくれるのではないかとも思っています。

三浦 白川さんの小説を何作か読ませていただいて、登場人物に必ずご自身の考え方だったり生き方だったりが投影されているような気がするんです。作家の方というのは、書かれている作品と実生活での姿とが一致していることが多いんでしょうか? 俳優は、私生活と世間でのイメージがぴたりと重なる方もいれば、真実を知らないほうがよかった、というくらいギャップのある方もいます。

白川 あまり作家の知り合いがいないので断言はできませんが、おそらく俳優と同じでしょう。イメージ通りの人もいれば、「えっ!」という人もいる。僕の場合は、自分が見たり、聞いたり、経験したものを土台に物語を発想するというタイプなので、ギャップは小さい方かもしれません。

 読まない理由と読む理由

三浦 前に伺ったことがあるんですが、ふだん小説を読まないというのは本当ですか?

白川 物書きになって二十年、最初から最後まで読んだという小説は数冊しかないですね。

三浦 読まない理由は?

白川 これは面白い!と思うのも、時間を返せ!と思うのも、自分の書いたもの書きたいものと似ていると思うのも、癪なんです(笑)。作家になる前の十年間くらいは、本当にいろいろと読んだんですよ。刑務所の中でも、僕は独房(ワンルーム)にいたんですが、そこに戻って午後六時から九時までの三時間は読書に費やしていましたから。三浦さんはどんな小説を読んでこられたのですか?

三浦 高校生くらいのときは、仲間の中で話題になっているからという理由で『人間失格』や『車輪の下』を読みました。変わったところでいうと、マルキ・ド・サドなんかも。何となく読んで、それで読んでいる気になっているという、当時よくいたような若者の一人でしたね。この世界に入ってから、特に最近はそうですが、主人公がいくつくらいなのかを確認してから、読み始めることが多いです。自分が演じられる登場人物がいないかどうかを探してしまうんですね。純粋に楽しむために本を読んでいるというより、「作品探し」をしてしまっている。悪い癖だと自分でも感じています。そうやって読みだしても、感性が合わないとしかいいようがないんですが、十頁くらいで先に進めなくなるものもあるんです。撮影に入ると読書量ががたっと減るので、一年間に読んでいる冊数でいったらそんなに多くはないと思います。

白川 大丈夫です。なんといっても僕は毎年ほぼ0冊だから(笑)。奥さんは小説を読まれるんですか?

三浦 よく読んでいると思いますよ。ベッドのところに、これから読む本がどーんと並べられていますから。

 恥ずかしさが、バネになる

白川 三浦さんは芸能界に入って四十年を超えていらっしゃいますよね。僕はデビュー作の『流星たちの宴』を書いてから二十年と少し経ちます。最初の小説は正直にいって苦労せずに書けたんです。書きたいことが自分の中につまっていたというのもあるし、書きあがったら次から次に編集者に渡していた。内容も実体験を反映させたものだった。それが二作目の『海は涸いていた』を書いているときは、苦労というか、小学生が教室で作文を読み上げられるときに感じるような恥ずかしさに襲われたんです。中身が直接体験したものではないこと、いいかえれば嘘を本当らしく書いた純然たるフィクションだったことも、関係しているかもしれません。とにかく逃げ回っていたんです。編集者の優しく激しい催促に負け、ついに読んでもらうことになって「これのどこが恥ずかしいんですか!」といわれて安心しました。以降、天性の図々しさでいままで書き続けていますが、三浦さんは演技をすることが恥ずかしい、そんな風に思ったことはありますか?

三浦 今でもそうですよ。人前で演技をするのは、どうやったって恥ずかしい。高校生の頃は対人恐怖症気味というか、注目されると途端に顔が赤くなって、本当にだめでした。二十歳になるかならないかでデビューが突然決まってしまって、どうしようもなくなったときに「人前で何かをやるのは、絶対に無理です。道の向こうに人がいると遠回りしてしまうくらい恥ずかしがり屋なんです」と打ち明けたんです。そしたら「役者はそういう人の方がいいんだよ。恥ずかしいという気持ちがない人間は俳優になんてなれない。恥ずかしさがバネになっていい役者になれるんだよ」と諭されて。それで、その気になっちゃったんです。今度は白川さんに、六十代を主人公にした小説を書いていただきたいですね。あらすじを読んだだけで、どれだけ恥ずかしい思いをしてもいいから出演したいと、いてもたってもいられなくなるような作品を。ぜひお願いします(笑)。

白川 この人物を三浦さんに演じていただきたいと自分でも感じるようなものを、全力で書きます。歳も歳ですから物書き人生もあんまり長くないかもしれませんが(笑)、出来上がりをお待ちいただければ。

新潮社 波
2015年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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