『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』
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普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話 [著]佐藤治彦
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
老後のことを今更考えるには取り返しのつかない私(64)にとって、無駄とも思われた読書でしたが、いやいやまだ間に合うのだと意を強くしました。
先頃亡くなった人間国宝・桂米朝の師匠・先代桂米團治(よねだんじ)は、「芸人、末路哀れは覚悟の前やで」と言い、多くの落語家はそれを頼りに生きました。一方、その言に反発し、「売れて大金持ちになる。年金などアテにするかい」と豪語する者もいて、しかしそれを実現させたのはほんのわずかで、多くは末路哀れの道を辿ったのです。
近年、落語家の意識は大きく変わりました。国民年金や国民健康保険にしっかり手当てし、老後に備えている者が大半なのです。私とその上の団塊の世代には無頼派の生き残りがわずかにいて、私もその一人なのですが、強気を装っても日々老後への不安は募るのです。
これまでもこの種の本を読まなかったわけではありません。しかし数字と専門用語が並びチンプンカンプン、そこへ本書なのです。プロローグにおいて、著者は「老後のために現役時代の楽しいことはガマンする。そんな人生はつまらないです」と言い、ところが老後をも楽しむという本が少ない、「だから、書いてみたのです」と宣言。これでもう決まりでした。しかも数字や専門用語はなるべく使わないと記すのですから。
そこを避けてきたとは言え、ほとんど知らないことばかりでしたね。特にお勧めするのが第四章の「知識の泉へようこそ」で、年金、保険、教育費を大いに考えさせられます。
本書は年収300万〜700万という人に向けてのものですが、中心はサラリーマンや公務員でしょう。知識があるはずのその人達でさえ、ややそうだったのかとなるはずで、著者の経済評論家という肩書きは伊達ではないのです。
さて、本書によって無頼派を脱した私の老後ですが、どうやら末路哀れだけは避けられるようです。