『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』イングランド銀行著

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『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』イングランド銀行著

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

「知識 正確に」中央銀の決意

 本書の原題は『もっとお金を刷れないの?』。景気が悪かったり、政府が財政赤字に悩んだりしている場合、お金をたくさん発行すればよいと私たちは思いがちである。実際のところはどうなのか、英国の中央銀行・イングランド銀行が英国国民に向けて経済を分かりやすく説明するために刊行したのが本書である。

 本書の前半はオーソドックスな経済学の入門であるが、豊富かつ身近な事例を基に経済学の考え方が説明されておりとても理解しやすい。経済学の基本を押さえたうえで後半では貨幣とは何か、金融政策の機能とは何かが説明されていく。

 銀行の信用創造については、教科書的な説明よりも、銀行が先に貸し出しを行うことで通貨を創るのが現実的であるとされる。その一方、銀行は利益のために貸し出しを行うので信用創造は無限には行えず、また預金通貨は流通する通貨の大半を占める重要なものなので中央銀行の規制が必要になることも同時に指摘している。貨幣は結局のところ「人々が信用することに合意したシステム」であるため、貨幣に価値があることを人々に信頼してもらい、その信頼を維持強化することの重要性が強調されている。

 2008年の世界金融危機に際してエリザベス女王が発した質問「どうして危機が起きると誰もわからなかったのですか?」への回答も書かれている。英国の経済学者アダム・スミスやケインズの名前もしばしば登場する(実際はスミスはイングランドではなくスコットランド出身だし、ケインズは経済政策をめぐりイングランド銀行としばしば対立したが)。英国国民に経済の正確な知識を届けたいという強い意志が本書から読み取れる。

 日本銀行や日本の政府・経済学者も経済学や経済政策について説明はしているが、経済学とはどのような学問か、経済政策が何を目的にしているのか、私たちの生活がどうなるかをわかりやすくかつ正確に伝える努力は十分だろうか。日本経済の事例も多く紹介されている本書は、英国だけでなく日本の人々にも役に立つだろう。村井章子訳。(すばる舎、1980円)

読売新聞
2023年11月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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