<書評>『暴力とポピュリズムのアメリカ史 ミリシアがもたらす分断』中野博文 著
[レビュアー] 矢部武(ジャーナリスト)
◆暴力の行使 いとわぬ気風
2021年1月6日、トランプ前米大統領の支持者らがバイデン氏の当選認定を阻止しようと連邦議会を襲撃した事件は世界に衝撃を与えたが、そこで大きな役割を担ったのが武装した極右民兵組織「ミリシア」だった。日本人にはあまり馴染(なじ)みがないが、ミリシアは米国人の銃を所有する権利を保障した憲法修正第2条で認められた合法的な団体である。
本書は憲法を盾に武装する人民組織に焦点をあて、現代の米国の暴力とポピュリズムの起源をたどった異色のアメリカ史で、価値ある一冊だ。著者は合衆国の建国前から存在し、独立戦争でも活躍したミリシアが極右民兵組織を生むまでの変遷の歴史を丁寧に紐解(ひもと)いていく。
本書の最後には、「合衆国憲法で銃の所有を市民の権利として認めるアメリカには、自由を守るためなら、暴力の行使もいとわない気風が満ちている」と書かれているが、米国の銃による暴力の問題を長く取材してきた評者も同様の懸念を持っている。米国の指導者たちはいまだにその解決策を見出(みいだ)せていない。
(岩波新書・1034円)
1962年生まれ。北九州市立大教授・アメリカ政治外交史。
◆もう一冊
『銃に恋して 武装するアメリカ市民』半沢隆実著(集英社新書)