グランプリを目指す漫才師のスリリングなスポ根的バトル

レビュー

6
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ゼロワン

『ゼロワン』

著者
若木未生 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198640606
発売日
2015/12/08
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

グランプリを目指す漫才師のスリリングなスポ根的バトル

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 昨年12月、5年ぶりに復活した漫才コンテスト「M-1グランプリ」の決勝戦が行われ、トレンディエンジェルの優勝で幕を閉じた。うーん、インパクトはジャルジャルのほうが……という話はともかく、一発勝負ですべてが決まる採点競技という意味では、それこそフィギュアスケートや体操競技のような緊張感。その中で爆発的な笑いをとらなきゃいけないんだから、もっとも苛酷なコンテストのひとつかもしれない。

 若木未生『ゼロワン』は、そのM-1(をモデルにした大会)に挑む漫才コンビを正面から描く青春小説。主人公の王串ミドロ(33歳)は、中堅のアニメ声優兼お笑い芸人。12歳も年下の相方、青山零(れい)(長身で二枚目)と、漫才コンビ「ゼロワン」を組んでいる。声優としては最近ぱっとせず、貯金はゼロ。漫才でも人気が出ない。どっちつかずのキャリアに嫌気が差し、王串は賞金1000万円のマンザイ・グランプリに本気で挑戦しようと決意する……。

 漫才の世界を描いた青春小説と言えば、又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』が240万部の大ヒットになっているが、対する『ゼロワン』はエンターテインメントど真ん中。個性的なライバルが次々に登場、さまざまな障害を乗り越えて予選を勝ち進んでゆく筋立てはまさにスポ根もの。高校野球マンガの緊迫の試合シーンさながら、ゼロワンが挑む後のないステージが、なんともスリリングかつリアルに、小説ならではの手法で描かれる。彼らの野心的な漫才(ややアドリブに頼りすぎですが)に接するためだけでも一読の価値がある。

 最大のライバル、人気と実力を兼ね備えた黒江兄弟のコンビ、「クロエ」の鬼気迫る漫才もすさまじい。「俺なあ、おもろいことをやって笑われると死ぬねん」という危険なボケをどう転がし、どう落とすのか。帯に推薦文を寄せた山本文緒も、「私が一番しびれたのは黒江ユキの造形でその狂気に目をみはった。……クロエの漫才が見てみたくて堪(たま)らない」と書いている。

 著者はライトノベルの世界では折り紙付きのストーリーテラーだが、一般文芸の単行本は本書が初。2010年から2012年にかけて連載した原型長編を4度にわたって全面改稿するなど、出版に至るまではかなりの苦労があったらしい。結果的に、M-1復活に合わせたようなタイミングで刊行され、本気の漫才愛とエンターテインメント作家としての実力をみごとに証明してみせた。お笑い好きはとくにお見逃しなく。

新潮社 週刊新潮
2015年1月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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