日本でそして世界で人気のファーストコンタクトSF きわめて近い将来が舞台の最新刊

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知能侵蝕 1

『知能侵蝕 1』

著者
林 譲治 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784150315641
発売日
2024/01/24
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

三体

『三体』

著者
劉慈欣 [著]/大森望 [訳]/光吉さくら [訳]/ワンチャイ [訳]/立原透耶 [監修]
出版社
早川書房
ISBN
9784150124342
発売日
2024/02/21
価格
1,210円(税込)

日本でそして世界で人気のファーストコンタクトSF きわめて近い将来が舞台の最新刊

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 時は203X年。さまざまな高度の軌道上にあるスペースデブリや機能を停止した人工衛星、さらに地球近傍の小惑星にまで、奇妙な動きが観測される。それらすべてが高度約6万キロの円軌道に移動しつつあるらしい。人為的としか思えない挙動だが、今の人類の技術では実行不可能。いったい何者の仕業なのか?

 一方、地上では、丹波の心霊スポットに動画撮影で訪れた若者が鉄パイプの人形みたいなロボット(?)に斬り殺される怪事件が発生する。

 ……と、謎また謎の出来事で始まるのが、林譲治の文庫書き下ろし長編『知能侵蝕1』。帯には、「近未来ファーストコンタクトの新シリーズ開幕」とある。SFの世界でファーストコンタクトと言えば地球外知的生命(平たく言うと宇宙人)との初めての接触を指す。著者の林譲治は、このところ、『星系出雲の兵站』『大日本帝国の銀河』『工作艦明石の孤独』と、連続してファーストコンタクトを描いているが、今回はきわめて近い将来を背景にしているところがポイント。

 小説の軸になるのは、航空宇宙自衛隊宇宙作戦群で司令官補佐を務める宮本未生一等空佐と、総合的情報収集分析機関として4年前に日本が新設したNIRC(国立地域文化総合研究所)の大沼博子副理事長。宮本は、軌道上の異変に関する情報を旧知の大沼にリークしたためJAXAへの出向を命じられる……。

 組織の一員としての登場人物をリアルに描くのが林譲治の作風だが、その特徴は本書にも遺憾なく発揮されている。次巻以降の展開が楽しみだ。

 日本のファーストコンタクトSFを代表する長編と言えば、野尻抱介『太陽の簒奪者』(ハヤカワ文庫JA)。あるときとつぜん太陽を囲むリングが形成され、人類文明が滅亡の危機に瀕した未来を活写するハードSFの傑作だ。対する劉慈欣『三体』(ハヤカワ文庫SF)は中国を代表するファーストコンタクトSF。中国版ドラマに続き、3月21日にはいよいよNetflix版ドラマが配信予定。

新潮社 週刊新潮
2024年3月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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