徹頭徹尾、女子による女子のためのノワール【自著を語る】

レビュー

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ガール・セヴン

『ガール・セヴン』

著者
ハンナ・ジェイミスン [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784167906887
発売日
2016/08/04
価格
983円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

徹頭徹尾、女子による女子のためのノワール【自著を語る】

[レビュアー] 高山真由美

“スピードをキメた天使のように書く”とイギリスのQ誌に評された若き新人作家ハンナ・ジェイミスン。第一作 Something You Are の草稿を書きあげたのは十七歳のときで、これが二十二歳のときに刊行され、二〇一三年に英国推理作家協会(CWA)のジョン・クリーシー・ダガー(新人賞)の候補となった。本書『ガール・セヴン』はそのジェイミスンの第二作である。

 主人公の清美(キヨミ)は日英ハーフの二十一歳、セヴンという通り名で、ロンドンのナイトクラブ〈アンダーグラウンド〉で働いている。三年まえ、何者かに家族全員を惨殺されて以来、生活はどん底で、なんとかそこから抜けだして東京に帰りたいと思っている。

 あるときセヴンは、〈アンダーグラウンド〉に客としてやってきたマーク・チェスターという殺し屋と知りあう。マークと店の経営者のノエルは旧知の仲で、マークはセヴンの家族の未解決事件についてあらかじめノエルから聞いており、興味があるので調べてみたいという。家族のことはただ忘れたいと思い、考えても涙すら出なかったセヴンも、やがてマークとともに過去を掘り起こすことになる。

 一方、これと前後してやはり店にやってきたロシア人の二人組がいるのだが、つまらない意地を張ったことがきっかけとなり、セヴンはこのロシア人たちの計画に巻きこまれていく。

 セヴンの家族を殺した犯人は見つかるのか? このロシア人たちは何者なのか? セヴンはどうなるのか? これがセヴンの過去の回想をはさみながら語られる。

 文章はクリスプで即物的だ。それでいて何気ない描写が洒落ている。主人公の眼に映るものを描いて一歩奥をにおわせる。

 チャンドラーやエルロイ、ランキンを引き合いに出す評を見かけたが、訳者が初読時に連想したのはジム・トンプスンとボストン・テランだった。

 トンプスンの描く主人公たちを、矢口誠氏は「つねに現状維持に失敗して破滅し、転落していく」と評している(『ジム・トンプスン最強読本』扶桑社)が、本書でマークとの出会いから復讐心に火のついたセヴンが破滅的な行動に走るさまは、まさにそうした主人公たちを思わせる。

 一方、テラン(とくに『音もなく少女は』)を思わせるのは、テキストの奥に見え隠れする感情のうねりである。セヴンを表わすキーワードには〈退屈〉〈嫌悪の情を隠せない〉〈鬱屈した怒り〉などがあるが、とくにこの三つめの〈怒り〉が圧倒的な力でセヴンを突き動かしている箇所がいくつかある。このあたり、やはり現代を生きる〈女子〉である著者のジェイミスンが、女性であるがゆえに世界から被る負のエネルギーをそのままぶつけ返しているようにも見える書きぶりなのだ。

 ちなみにジェイミスンは女子(girl)という言葉を、「不自由を強いられる“わたしたち”」という意味を含めて使っているふしがある。一見、対をなす語のように思えるboy は、大きくてもティーンエイジャーまでにしか使っていない。〈女子〉の“向こう側”にいるのはman であり、guy である。ついでながら、作中でときおりセヴンがデイジーとくりひろげる歯に衣着せぬ女子トークはなかなか楽しい。著者本人も「女性キャラクターの“声”を見つけるのは、男性キャラクターの場合よりむずかしい、ただしデイジーを描くのはものすごく楽しかった」と語っている。

 そんなに目新しいたぐいの話ではないかもしれないが、とにかく読まされるのは、文章のせいもあるのだろうし、ちょっとしたエピソードや情報の出し方がうまいからでもある。そして何より女性本位の視点が徹底している。女にも暴力衝動があるという単純な事実を、アクションとしてでなく、キャラクターの内面に端を発する切実な欲求としてここまでストレートに描いたものは珍しいのではないだろうか。本書は徹頭徹尾、女子が女子を描いたノワールだ。

 さて、著者のハンナ・ジェイミスンについてもうすこしご紹介しておこう。

 ジェイミスンの小説はいまのところすべて、ナイトクラブ〈アンダーグラウンド〉を中心に据え、そこに出入りする人々のうちの誰かを主人公とするスタイルで書かれている。どこから読んでも、あるいはどれかを単独で読んでも支障なく読める。

1.Something You Are(2012)未邦訳

 本書『ガール・セヴン』にも登場するマークの同居人で、デイジーの恋人でもあるニック・カルアナが主人公。やむにやまれぬ事情からマークと同種の探偵兼殺し屋をしているニックは、ある男から、ティーンエイジャーの娘が行方不明になった、探してもらいたいと依頼される。やがて娘は死体で発見され、依頼は犯人探しへと移行するのだが、夫妻との付き合いが長引くにつれ、ニックは依頼人の妻に惹かれていく。

「十七で書いていたときにはもっとストレートなラブストーリーだった。だけど書き直しているうちにどんどんダークな話になり、もはやこれをラブストーリーと称するつもりはない」とジェイミスンはインタビューに答えて語っている。

 冒頭でご紹介したとおり、この作品は二〇一三年CWA新人賞の候補だった(惜しくも受賞は逃したのだが。ちなみにこのときの受賞作は、先日邦訳が刊行されたデレク・B・ミラー著、加藤洋子訳の『白夜の爺スナイパー』である)。

2.Girl Seven(2014)本書

3.Road Kill(2016.12 刊行予定)

 すでに出まわっているネット上の情報によると、やはり〈アンダーグラウンド〉に関わる人間が主人公ではあるものの、これまでの作品とはすこし趣きの異なるロードノベルらしい。

 ジェイミスンみずから語るところによれば、好きな作家はJ・G・バラード、グレアム・グリーン、ブレット・イーストン・エリス、村上春樹、アーネスト・ヘミングウェイ、ハンター・S・トンプソンだそうである。さらに、タランティーノの影響を受け、文体や暴力の描写に関してはデイヴィッド・ピースの影響を受け、そして誰よりもニック・ケイヴの影響を受けているという。マニック・ストリート・プリーチャーズやカサビアンを追って日本、アメリカ、ヨーロッパを旅してまわった時期もあったとか。いつかダークでツイストの効いたロマンティック・コメディを描いてみたい、ともいっている。ぜひ読みたい。先が楽しみな作家である。

(「訳者あとがき」より)

文藝春秋 本の話WEB
2016年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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