時価総額世界2位の中国企業は5Gでコストダウン DXがもたらす産業革命とは

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コロナ禍により加速した企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は、単なる変化ではなく「産業革命」と呼べるだろう。そんなDX化に大きな影響を与えたのが「5G」の登場だ。“超接続(ハイパーコネクテッド)”な生活が実現する5G関連市場は、今後5年で2500億ドル超まで成長すると予測されている。これからの5G時代の中で価値を生み出すために企業がとるべき戦略とは――。

『FUTURE HOME 5Gがもたらす超接続時代のストラテジー』の監修を務め、世界有数のコンサルティング会社・アクセンチュアで、長年に渡り通信・メディア業界を担当してきた廣瀬隆治氏による「日本語版 序文」を公開する。

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「DX」「5G」で大きく変わるライフスタイル

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が、ビジネスの世界で語られるようになって随分経つ。特に2020年は新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、長期的かつ甚大な被害をもたらした一方で、ビジネスの世界のみならず、日常生活においてもDXがこれまでにないスピードで加速した一年であった。

具体的には、リモートワークにより在宅で仕事をする人が増えたり、ネット通販に加えて料理などのデリバリーサービスの利用が伸びたり、一部の規制緩和により遠隔診療のようなサービスが市民権を得つつあったりと、日々の暮らしの在り方がその前提条件を含めて抜本的に変わってきている。そして、新型コロナウイルスの状況が改善したとしても、その利便性や体験価値ゆえに、こうした多くの変化は不可逆的なものであろう。

新型コロナウイルスと時を同じくして、日本を含む世界で商用化を迎えた5G(第5世代移動通信システム)も、DX の流れの中で抜本的かつ不可逆的な変化をもたらす大きな可能性を秘めている。その中核は、通信技術としての正当な進化により、データ通信の効率性ともいえるビット単価が大幅に低減され、これまで費用対効果が成り立ちづらかったような動画像を中心とした大容量のデータ収集と活用が可能になる点であろう。

ただし、この「大容量」を代表に5Gの通信技術の連続的な進化としてよく語られる「大容量」「超低遅延」「多接続」という三つの特徴のみに着目すると、5Gによる「DX」の可能性を見誤ることになる。

DXの本質を見極めよ

5Gの可能性について言及する前に、そもそも「DX」とは何かを考えたい。デジタル活用の文脈でよくされている議論だが、「そろばんを電卓に替える」類の連続的な技術進化や限定的な手段の置換は「DX」と呼ぶべきではない。

もちろんそれはそれで価値があり、順次浸透していくものであるが、人々の生活や仕事の仕方、業界・市場構造といった大きな前提は変わらない中での断片的な技術の適用にすぎず、効果も限定的となる。こうした営みは、ビジネスの世界で期待されるような、市場の創造的破壊や新たな競争優位構築によって各企業の持続的な成長に資する真の「DX」にはなり得ない。

「DX」の本質は「ゲームチェンジ・ルールチェンジ」であり、対象の大小こそあれ、人々が当たり前だと思っているような前提条件を含めて、いかにして抜本的かつ不可逆的な変化をもたらせるかを企図すべきである。

それゆえに、5Gについても通信技術単体に着目するだけではなく、AIやクラウドに代表されるような周辺技術との組み合わせ、さらには生活者を中心とした最終顧客の変容や各種規制動向を含めた市場変化の潮流を見極めることが重要であろう。

言いかえると、社会/業界に内在する本質的な課題・余地に対して、5Gが進化する技術群と共にいかに抜本的な解決をもたらし、今とは前提条件が大きく異なるどのような未来が到来するかを描いた上で、自らその実現をめざすということが5Gを活用した「DX」の第一歩となる。

そして、その着手タイミングは5Gがこれから本格普及する中、新型コロナウイルスにより社会/業界に内在する構造的な課題が図らずも浮き彫りになり、変革の機運が高まっている今こそが最適といえるだろう。

事例──製造業における革新

それでは具体的な5Gの可能性を一つ挙げよう。製造業を基幹産業とする我が国においては、少子高齢化に伴う労働力不足、特に熟練の技能労働者が退職・枯渇していくという問題は、大きな課題である。5Gは代替労働力としてのロボットの普及価格化に大きく貢献し、この問題を解決すると見込まれる。そのメカニズムは次の通りだ。

現在の高度な判断・作業を行なうロボットは、通信・インフラ技術の制約によって「頭脳」を一台一台が持たなければならない状況にあり、これが価格を引き上げ、広範な普及を妨げている。

一方、今後5Gおよび周辺技術が進化すると制約がなくなり、この「頭脳」を各ロボットが個々に持つ必要はなくなる。そして、クラウド側に配置された「頭脳」が、何十~何百台もの安価になったロボットを遅延なく統合制御できるようになる。

もちろんロボットでは難しく、人間のほうが優れている作業も多く存在するため一概には言えないが、少なくとも人間がやらなくてもいい作業については、人件費に対して十分な価格競争力を持ったロボットが代替する──そんな未来がすぐそこまで来ているのだ。これは労働力不足という本質的な課題を解決し、製造業の在り方を抜本的かつ不可逆的に変えていくに違いない。

実際、建設機械業界で時価総額世界2位へと急成長している中国の三一重工は、中国政府が掲げる「中国製造2025」構想のもと、現在1台1000万~2000万円する自動運転フォークリフトを5Gおよび周辺技術を活用し、量産効果も合わせて1台100万~200万円と大幅に価格低減させた。そして、まずは自社工場で活用し、5年後に製造コストを半減させるという野心的な目標を掲げ取り組みを開始している。

ロボットが人間とは異なり24時間稼働できることも踏まえると、人間よりも価格面と能力面で競争力のある労働力を供給できるようになる。結果、圧倒的な競争優位を形成し、新たな市場も獲得できるだろう。なお、同様の取り組みは中国に限らず、自国の製造業の国際競争力を強固なものにしたいと考えているドイツや米国でも進んでいる。

激変する社会構造に企業はどう対応すべきか

5Gの製造業における可能性の一例を紹介したが、5Gが引き起こす「DX」は産業向けに留まらない。

3Gから4Gへの進化の中で、スマートフォンという周辺技術の普及と相まって、音楽コンテンツビジネスがCD等の媒体を介した売切型からサブスクリプション型のストリーミングサービスへと移行し、人々の音楽の楽しみ方を抜本的に変えたように、5Gもまた消費者の生活の在り方に変化をもたらすだろう。

本書では、特に最終消費者である生活者の立場に立った際、その主たる生活の場である各家庭にどのような未来が到来するのか、その未来における5G活用の必然性は何かを紐解き、その実現に向けて関連事業者がとるべき戦略について考察するものである。

本書を手にされた読者の皆様が、今後到来するであろう豊かな未来を想像し、そこにおける5G活用の可能性について思いを巡らせ、場合によっては皆様自身の未来に役立てていただけることを切に願っている。

廣瀬 隆治(ひろせ りゅうじ)
アクセンチュアのビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ通信・メディアプラクティス日本統括マネジング・ディレクター。2004年、アクセンチュア入社。5Gを含め、長年に渡って通信・メディア業界を担当している他、幅広い業界においてAIやIoTを活用したデジタル戦略立案、オープンイノベーション推進を支援してきており、関連する記事執筆・講演も多数実施。東京大学工学部卒業、同大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。

廣瀬隆治 監修(アクセンチュア株式会社 通信・メディア プラクティス日本統括マネジング・ディレクター)

日本実業出版社
2021年8月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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