私大文系の「数学不要神話」が崩壊 これからの大学受験に求められる力とは

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早稲田大学政治経済学部など、文系でも数学を必須とする私立大学が増えてきた Photo by vacant/Adobe Stock

いま、中高の数学教育が激変しています。たとえば幾何の立体を学ぶ単元では3Dプリンタを用いたり、生徒同士のディスカッションや探求を深める「教えない数学の授業」を取り入れている学校もあります。

それと時を同じくして、早稲田大学の看板でもある政経学部など、文系でも数学を必須とする私立大学が増えはじめたことにより、「私文(私立文系)なら数学を捨てられる」といった受験戦略が崩壊しました。

ここでは、激変する数学教育の今を追った宮本さおり氏のルポ『データサイエンスが求める「新しい数学力」』より、大学受験にまつわる箇所をピックアップしてご紹介します。

大学入試改革ショック

ロボットなどの技術革新とグローバル化を迎えた社会を背景に、大学入試にも大きな変化が起こっています。特に顕著になっているのが首都圏の難関大学における変化です。

各大学が行う入試をどのように変更するかは、それぞれの大学に委ねられており、これまでも小さな変化は起こっていました。しかし、2021年度の共通テスト導入など、全体的にインパクトを与える動きが最近いろいろと出てきたのです。

難関私立大学が合格者数を減らしてくるなど、いくつかの要因が重なり、ここ数年の大学入試は“入試改革ショック”と言えるような状況が続いてきました。いったいどういうことが起きていたのか、少し詳しく見てみましょう。

最近の大学受験において苦渋を飲んだのが2018年度と2019年度の入試に挑んだ生徒たちです。文科省が大学定員厳格化を促した通達を発端に、難関私立大学では合格者数を大幅に減らす動きがありました。また、2020年度入試まででセンター試験の廃止が決まっており、学生や保護者の中には大きな不安が生まれていました。浪人すれば新しい形式の入試に挑まなければならないことになるからです。

「基礎学力が安定していれば、問題形式が変わっても解けるはず」という声ももちろんわかります。しかし、基礎学力があったとしても、問題形式が変わるとなれば、それなりの訓練が必要です。バレーボールの練習をしてきたのに、試合の直前に出場競技がいきなりバスケットボールになりましたと言われたら、同じ球技とは言え、いくら運動神経の良い子でもパフォーマンスに差が出るのは当然でしょう。

同じくらいの状況が今回の入試改革だったと思います。スポーツで言えば、使う筋肉が違ったり、使い方が違ったりするのです。教育について、国が掲げる「育成を目指す資質・能力」というものがありますが、その柱の1つとして、「思考力、判断力、表現力」ということがより強く言われるようになりました。そして、センター試験と比べて共通テストはこれらの力がより求められる問題に変わったのです。

読解力が求められる数学のテスト
初めての共通テストとなった2021年度(令和3年度)入試の問題を見ると、数学の問題では、中高一貫校の適性検査型入試でおなじみの太郎さん花子さん問題が出されていました。問われる内容はこれまでのセンター試験とさほど変わらないのですが、国語のように文中にある穴を埋める形式になっているため、読解力が求められました。もちろん、数学的知見がなければ答えを導き出すことはできませんが、読解力も求められたのです。


令和3年度共通テスト数学I・数学Aより


令和3年度共通テスト数学I・数学Aより


令和3年度共通テスト数学I・数学Aより


令和3年度共通テスト数学I・数学Aより

そして、各大学で実施する入試についても変化が見られます。共通テストの実施に合わせたかのように、入試科目を変更する大学もありました。また、早稲田大学の看板学部、政治経済学部が共通テストの数学の受験を必須にしたのは大きな話題となりました。これにより“私立文系は数学ができなくても合格できる”という神話が崩れることになりました。

早稲田大学総長の田中愛治氏は、2020年に行われた「週刊東洋経済」の取材に対し、全学に数学入試を導入することは2~3年前から議論していたと回答しています。そして、政経の入試で数学を必須にしたのは、入学後の勉強に必要な基礎学力として、数学が必要だからだと述べています。

実際、政治学の分野でもデータ科学的な研究が行われるようになっています。元々数学的素養が求められることの多かった経済学部に加え、すべての学部でデータを使った研究が進められています。もはや数学は大学生である以上、知っていて当然、活用できて当然の必要不可欠な科目となりつつあるのです。

宮本 さおり(みやもと さおり)
教育・子育て分野を中心に執筆するジャーナリスト。同志社女子大学卒業後、地方紙記者として文化・教育紙面を担当。2004年、夫の留学に伴い渡米し、シカゴにて第一子の子育てに専念。2008年から教育、子育て、ワークライフバランス分野を中心に取材活動を再開。2015年より老舗中学受験雑誌『私立中高進学通信』で外部記者として学校取材を担当。
近年は「AERA」や「東洋経済オンライン」などで執筆。「東洋経済オンライン」のルポ連載「中学受験のリアル」は毎回人気記事ランキングにランクインする人気連載に成長。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。「東洋経済オンラインアワード2020ソーシャルインパクト賞」受賞。プライベートでは大学生と小学生の子を持つ母。

中村 力(なかむら ちから)
北海道大学大学院理学研究科修了。公益財団法人 日本数学検定協会 学習数学研究所 研究員。日本数学検定協会において、「ビジネス数学検定」と「データサイエンス数学ストラテジスト」資格試験の立ち上げに全面的に関わった。著書に『完全ガイド! 数学検定1級 出題パターン徹底研究』(森北出版)、『ビジネスで使いこなす「定量・定性分析」大全』(日本実業出版社)などがある。

宮本 さおり(ジャーナリスト)/中村 力(日本数学検定協会 学習数学研究所 研究員) 協力:日本実業出版社

日本実業出版社
2022年5月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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