プロが当事者になって気づいた「教科書通り」に行かない相続の現実 『相続専門の税理士、父の相続を担当する』試し読み

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『相続専門の税理士、父の相続を担当する』が、刊行2週間で早くも3刷とヒット中。相続のプロが当事者になって気づいたこと、やるべきこと、伝えたいことをまとめた本書。

「親が亡くなってからできる相続対策はない」「早めの相続対策は早めの介護対策でもある」「父が7人の孫に15年間贈与をした理由」「私が遺言どおりに分割しなかった訳」など、プロと当事者、双方の視点からのアドバイスが満載です。
 一方で、「収益を生まない土地の整理に5年」「遺言作成に10年」かかったなど、相続の現実(リアル)も描きます。

 ここでは、本書の「はじめに」を紹介いたします。




はじめに

●「相続専門税理士」として、父の相続を担当する

 私は、1997年に税理士になってから、数々の相続案件に携わってきました。
 私が代表税理士を務める「ランドマーク税理士法人」は、相続税をはじめとする資産税に特化した税理士法人で、相続税の申告件数は約6000件を超えています(相続相談件数は2万2000件超)。
 約6000件もの相続案件に関わり、さまざまな事例を経験してきた私が、2021年に、「これまでに一度も経験したことのない、特別な相続案件」を担当することになりました。

 それは、「自分の父親の相続」です。

 2021年4月、私の父、清田康明が90歳で亡くなりました。
 父の死後、相続が発生。私は「相続専門税理士」として、「父を被相続人(財産を譲り渡す人)」「母、姉2人、私の4人を相続人(父が持っていた財産を譲り受ける人)」とする相続税の申告、相続手続きを任されたのです。

●土地があるからこそ、相続はややこしくなる

 私の生家は、400年以上続く農家で、代々、山林や農地を受け継いできました。
 父はまだ小学生だったときに、先代(祖父)から土地を譲り受けています。当時の民法は、「長男が跡取りとして財産のすべてを受け継ぐ」ことを認めていたため、「相続」を経験することなく、父は早世の先代に代わって、家長になったわけです。
 父にとって、先代から受け継いだ農地、土地、山林を守るのは当然の役目だったはずです。
 ですが私には、父が亡くなる20年以上前から、税理士の知見として、「このまま土地を所有し続けると、将来、相続手続きが難航する」「土地をそのまま守り続けることが、結果的に家族に不利益をもたらす可能性がある」「このまま農業を続けても、事業として成立しない」と、危機感を抱いていました。

 父は農地のほかに、高低差が20m以上もある山林といった「問題地(有効活用ができない土地のこと)」や「行政によって開発を制限されている土地」を所有していました。
 こうした空き地は、「土地としての評価が低い(売却しにくい)」「収益力がない」「固定資産税がかかる」「維持費、管理費がかかる」といった理由から、不良資産になります。
 土地を持っていても、現在の税制では、相続税や固定資産税が重くのしかかり、何も対策を講じなければ、資産は目減りする一方です。

 一般的に、都市近郊農家の農業所得は、さほど多くありません。
「現預金はない。収入も少ない。けれど、利用価値の低い土地だけはたくさんある」という実情を改善しなければ、「相続税を払うこと」も、「相続手続きをスムーズに進めること」も難しくなることが私には予想できました。
 そこで私は、父と相談をして、「父がまだ元気なとき」から、「問題地の解消」「農業に代わる現金収入の確保(賃貸事業)」「不動産管理会社の設立」「生前贈与」「遺言書の作成」など、「相続対策(相続税対策)」と「相続税の申告、納税の対策」に取り組みはじめたのです。
 その結果、相続税を「約30%」も減額させることに成功しました。

●長男として、税理士として、「父の死」とどう向き合ったのか

 私はこれまで、「相続の専門家」として、依頼者にアドバイスを送る立場でした。
 今回は違います。
 私も「相続の当事者」です。
「父親を亡くし、財産を相続することになった長男」という立場と、「相続を円滑に進め、相続税の申告、納税をする税理士」という2つの立場で、自らの相続に関わることになったのです。

 本書は、「長男として、そして税理士として、父の長期の生前対策を中心に相続にどのように向き合ってきたのか」「父の死をどのように受け止めてきたのか」その私の経験を通して、「相続対策の大切さ」「相続対策の具体的な方法」「相続税の申告、納税の注意点」をまとめたドキュメント(清田家の相続の記録)です。

●今や相続トラブルは、「お金がある人」だけの問題ではない

 相続時のトラブルは、年々、増加傾向にあります。
 最高裁判所の司法統計によると、2000年時点で8889件だった調停・審判件数が、2020年には1万1303件に増えています。
 相続問題は、多額の資産を保有している人にかぎった問題ではありません。相続財産で争っている金額の割合は、「5000万円以下」が約77%も占めています。
「うちには大した財産がないから、揉めようがない」と考える方もいますが、財産がなくても、人の感情はもつれるものです。
 次の「5つ」の項目の中で、「ひとつでも当てはまる人」は、すぐにでも相続対策(相続税対策)をはじめてください。

【1】兄弟がいる人
【2】土地を持っている人
【3】相続税を払う可能性がある人
【4】子どもがいない人
【5】顔を見たことがない相続人がいる(特に甥・姪)

 そうしないと、「相続税を余計に支払ってしまう」「財産の相続分をめぐって、家族間でトラブルが起きる」ことが考えられます。

 早くから対策に乗り出すことで、「資産を残す」「節税する」「家族の平和を守る(相続トラブルを回避する)」ことができるようになります。
 本書が、みなさまの助力となることを願ってやみません。

清田幸弘(税理士)
ランドマーク税理士法人 代表税理士。立教大学大学院客員教授。1962年、神奈川県横浜市生まれ。明治大学卒業。横浜農協(旧横浜北農協)に9年間勤務、金融・経営相談業務を行う。資産税専門の会計事務所勤務の後、1997年、清田会計事務所設立。その後、ランドマーク税理士法人に組織変更し、現在13の本支店で精力的に活動中。急増する相談案件に対応するべく、相続の相談窓口「丸の内相続プラザ」を開設。また、相続実務のプロフェッショナルを育成するため「丸の内相続大学校」を開校し、業界全体の底上げと後進の育成にも力を注いでいる。

清田幸弘(税理士)

あさ出版
202年6月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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