赤ちゃんの頃に虫歯菌を防いでも「歯周病」になる理由とは? 基礎知識を歯科医師が解説

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歯周病は身近な病気だがあまり実態が知られていない(写真はイメージ/写真AC)

 臭いが気になるようになった。歯茎が腫れて痛い。

 こうした症状から歯周病が発覚する方がいます。ひどい症状の方は歯を失ってしまうこともあります。

 また、歯周病は歯を失う原因になるだけでなく、さまざまな研究結果から認知症やがん、心血管疾患などの病気に繋がるリスクがあると考えられるようになり、歯周病の治療や予防の重要性が高まっています。

 なぜ歯周病になるのか? 歯周病になるとどうなるのか? 虫歯になったことない人が歯周病になる理由とは。

『認知症になりたくなければ歯周病を治しさない』の著作を刊行する歯科医師の福田真一先生に、歯周病の基礎知識を解説してもらいました。

虫歯よりも歯周病で歯を失うことが多い

 世界最大の感染症が歯周病であることをご存知でしょうか。

 歯周病は認知症やがん、心血管疾患、誤嚥性肺炎、関節リウマチ、糖尿病、メタボなど日常生活に支障をきたすだけでなく、死にも至る病気の原因になることがわかっています。まさに“現代人が恐れる病気の原因は口から”とも言える状況なのです。みなさんは歯やお口の健康に普段からどのくらい気を遣っていますでしょうか? 気を付けている人もそうでない人も、歯周病について改めて考えてみる機会が必要です。

 歯周病は歯周病菌という細菌が感染して引き起こされる病気です。歯茎に腫れや出血が発生し、ひどい症状では歯茎や歯を支える骨などを溶かしてしまいます。

 2018年に「8020推進財団」が実施した「永久歯の抜歯原因調査」というデータがあるのですが、日本歯科医師会の会員である医師2345名による回答では、歯が失われる原因のトップは歯周病で37・1%、2位が虫歯の29・2%という結果でした

 このように歯周病は虫歯よりも高い割合で歯を失う原因となっているのです。


歯を失う原因のトップは歯周病で全体の 37.1%を占める(出所:8020 推進財団『第 2 回永久歯の抜歯原因調査』より作成)

 歯周病にかかっている人かどうかはなかなかご自身ではわかりませんよね。

 歯周病を判断するひとつの基準は歯周ポケット(歯と歯肉の間の隙間)が4ミリ以上あるかどうかです。

 図2-2は厚生労働省が6年ごとに実施している「歯科疾患実態調査」をまとめたものですが、平成28年度の調査を見ると、どの年代も平成23年度の前回調査と比べて増加傾向にあることがわかります。

 また、年齢を重ねるほど歯周病にかかっている人の割合が増加し、65歳以上では50%以上の人が歯周病にかかっていることも読み取れます。


[図 2-2]歯科疾患実態調査(出所:厚生労働省「平成 28 年歯科疾患実態調査」)

 この調査は、すでに歯周病が進行している人を対象としていますから、歯肉が炎症し始める初期の歯周病の人の数を加えれば、さらに割合は増えます。よく「日本人の成人の約8割は歯周病」といわれますが、その表現もあながち間違いではないでしょう。

歯周病になる原因とは?

 歯周病というと、虫歯が悪化して発症すると思っている方もいるようですが、そうではありません。

 ただ、虫歯も歯周病も、歯についた「プラーク(歯垢)」に潜む細菌に感染することで起こる病気という点で共通ですから、まずはそのことについて説明しましょう。私たちの歯の表面は、「ペリクル」と呼ばれる薄い膜で覆われています。


歯の仕組み

 健康な歯は、そこに善玉菌が棲みついています。しかし、歯磨きなどの手入れが十分でなく、汚れた状態が続くとペリクルに悪玉菌が棲みつくようになります。悪玉菌がまとまって固まると、「プラーク」ができます。プラークは病原菌の集団といっていいでしょう。

 プラークは1ミリグラムのなかに1億個の細菌が棲んでいます。試しに自分の爪で歯の表面を触ってみてください。白いものが爪の先に付着したら、それは歯の表面にプラークがついている証です。プラークは唾液や歯磨きによって歯の表面から流されないように、ベタベタした膜をつくり出して歯の表面にこびりつこうとします。これが「バイオフィルム」と呼ばれる膜です。

 バイオフィルムが形成されると、自分で歯磨きをするだけでは取り除くのが難しくなります。歯磨き粉の殺菌、抗菌成分でもバイオフィルムのなかには入っていくことはできないため、細菌はさらに増殖し続けるのです。

虫歯には虫歯、歯周病には歯周病の対策が必要

 虫歯や歯周病の原因となる細菌は、バイオフィルムに守られながら活動をします。バイオフィルムに棲む細菌は2つの種類に分けられます。

 ひとつは「好気性」と呼ばれる菌で、酸素のある環境を好みます。もうひとつは「嫌気性」と呼ばれる菌で、酸素のある環境を嫌って酸素に触れない部分=歯と歯肉の間で繁殖します。

 虫歯の病原菌は好気性で、空気に触れる歯肉縁の外側で活動します。食べ物の糖分を食料にして増殖し、歯の表面から徐々に溶かしていくのです。

 一方、歯周病の病原菌は嫌気性で、歯肉縁のなかなど酸素に触れない部分に潜んでいます。食べ物の糖分を得られない代わりに、周囲にあるタンパク質を破壊し、そこで得られるアミノ酸を栄養源として増殖します。

 虫歯も歯周病も症状が進行すれば、最終的に歯が抜けてしまいますが、そこに至るまでのプロセスは全く違うのです。そのため、虫歯には虫歯の対策を、歯周病には歯周病の対策を必要とします。

歯周病菌はどうやって感染するの? 防ぐ方法は?

 冒頭で歯周病は世界最大の感染症だとお伝えしました。歯周病=感染病だとお伝えすると、驚かれる人もいらっしゃると思いますが、事実、2001年のギネス世界記録には「世界で最も一般に蔓延している感染症」として登録されているほどです。

 では、どのような経路で私たちは歯周病菌に感染するのでしょうか。

 まず虫歯菌と歯周病では細菌の種類が違います。

 虫歯菌の多くは幼い頃に親子間で感染することが多く、稀に親類や友人関係からも感染する可能性があります。

 この期間に感染を防ぐことで虫歯になり難くなると言われています。しかし、歯周病とは細菌が違うので、虫歯菌を防いでも歯周病にはなってしまうのです。

 では、歯周病菌はどうやって感染するのでしょうか?

 歯周病菌は、歯が生え揃い、歯周ポケットが形成されたあとに、恋人や夫婦などの間でキスをしたり、友人らと食器類を共有したりすることで感染するのです。

 このように歯周病菌を完全に防ぐことはたいへん難しいです。不可能といってもいいでしょう。これが「世界で最も一般に蔓延している感染症」の所以です。

ほとんどの人が歯周病菌を保有している

 実は、私たちの口には300~500種類の細菌が潜んでいて、それらは「口腔内細菌叢」という細菌の集団をつくっています。虫歯菌や歯周病菌も含まれる口腔内細菌叢は30歳前後で完成するといわれ、人によって口腔内細菌叢のバランスは異なります。

 残念ながら、口腔内細菌叢のなかに歯周病菌が棲んでいない人はほとんどいません。そして口腔内細菌叢が完成すると、その環境が半永久的に続きます。つまり、歯周病菌を消滅させたいと思って歯磨きを頑張っても、完全には歯周病菌は消滅しないのです。

 ではどうすればよいのかというと、歯科クリニックで薬や器具などを使ってできる限り、除菌することです。大切なのは口内の健康な状態を維持すること。日々のお手入れをしっかり続けることで歯周病菌の増加を防ぐことができます。

 そして、歯周病菌の増加を防ぐことは認知症やがん、糖尿病などのさまざまな病気の予防につながると考えられています。お口の健康は全身の健康につながるということを意識して、定期的な歯科クリニックの活用やご自身によるケアを行っていきましょう。

福田真一(福田デンタルクリニック院長 医学博士)
1959年、兵庫県神戸市生まれ。栄養科学研究所(当時)の所長・蓮田康弘氏、日本綜合医学会の元会長・甲田光雄氏に師事する。93年、「福田デンタルクリニック」(大阪市)を開院。口腔医療と全身疾患の関係を研究した「トータルヘルスケア・コーチング(福田式11箇条)」を取り入れ、患者様に提案。スタッフ全員に食養指導士の資格保有を義務付け、食養について専門的なアドバイスを行っている。2011年には医療者が必ず直面する「命」の問題に向き合うために、一般財団法人大阪国学院にて神職資格を取得。2023年現在、「福田デンタルクリニック」は紹介患者99%、リピート率98%、全国から1万人の患者が訪れる大人気のクリニックとなる。

協力:あさ出版

あさ出版
2023年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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