蔵書一代 紀田順一郎 著 

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蔵書一代

『蔵書一代』

著者
紀田 順一郎 [著]
出版社
松籟社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784879843579
発売日
2017/07/17
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

蔵書一代 紀田順一郎 著 

[レビュアー] 塚田博康(ジャーナリスト)

◆3万冊身を切る別れ

 「いよいよその日がきた。――半生を通じて集めた全蔵書に、永の別れを告げる当日である」。書誌学の専門家で内外の怪奇・幻想文学にも通じた著者は、三万冊の蔵書を八十歳になった年に処分せざるを得なくなった。私も書斎と書庫からあふれた本の「断捨離」を強く求められている者として、身を切るような惜別の情がひたひたと伝わってきた。

 著者は蔵書がなぜ増え、やがて散逸するのかを考察した。理由の一つは図書館にあるという。使いやすい図書館があれば、作家や研究者はそれほど本を蓄えなくてもすむが、貸し出し手続きやコピーに手間がかかる。収蔵書も借り手の多い本に偏る。著作権に伴う制限もある。結果において個人蔵書が増殖する。

 寄贈先が見つかる幸運な例を除いて、苦労して収集した蔵書や資料はやがて散ってしまう。SNS(会員制交流サイト)が普及し、月に一冊の本も読まない人が増え、読まれるのはもっぱら実用書という出版傾向のなかで、教養という基盤に立った「間口の広い蔵書は後を絶つ可能性が強い」という著者の指摘は、日本の将来への厳しい警告だ。

 貴重な蔵書を保存・活用する方法を考えつつ、古書店街でリュックを背負って何冊もの本を求める人がいることに、著者は「日はまた昇る」とわずかな希望をつなぐ。私も思いを同じくした。

(松籟社 ・ 1944円) 
<きだ・じゅんいちろう>1935年生まれ。評論家。著書『紀田順一郎著作集』。

◆もう1冊 

 岡崎武志著『蔵書の苦しみ』(光文社新書)。二万冊超の蔵書を抱えた一九五七年生まれの書評家による考察。

中日新聞 東京新聞
2017年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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