『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』
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K-POPはなぜ世界を熱くするのか 田中絵里菜著
[レビュアー] 篠崎弘(音楽評論家)
◆海を越え ファン文化確立
作曲家の都倉俊一氏は四月に文化庁長官に就任後、取材に対して「今は映画も音楽も韓国に先に行かれているところがある」「東方神起なんかが出てきたころは日本の方がちょっと先に行っていたのに、あっという間に追い抜かれました」と悔しげに語った。
韓国の男性アイドルグループBTSのアルバムが米「ビルボード」誌で初登場一位になったのは二〇一八年五月。以来「BTSはなぜ世界の音楽市場で売れたのか」という分析がさまざまになされてきたが、多くは韓国政府がエンターテインメントを重要な輸出産業と位置付けて手厚い支援策を取ってきたことを挙げている。都倉発言もこれを意識したものと思われる。
こうした巨視的な見方とは別に、音楽の作り手と受け手の双方に密着してK‐POPが売れた背景に迫ったのが本書だ。著者は韓国のカルチャー誌でデザイナーとして働きながらK‐POPのアーティストや裏方のクリエーターたちを取材。自らもファンとしてK‐POPの受容システムを体験した。それらは「著作権保護」に重きを置く日本とはかなり趣が異なる。
例えば韓国の音楽ビデオは公開と同時に多言語字幕付きで国外でも見られる。アイドルがダンスを練習する様子は「ダンスプラクティス」で公開され、ファンがフリを覚えやすい。公開イベントをファンが撮影してユーチューブに上げる「チッケム」という文化もある。アイドルが配信する「V LIVE」の視聴者は八割が海外在住。ファンがそこに字幕を付けることもできる。ファンが街頭や駅にアーティストを応援する広告を出したりする「サポート」文化も根付いている。単なる受け身にとどまらないこうしたファンのコミュニティーは「ファンダム」と呼ばれる。北欧を中心とする海外の作曲家たちを起用する「ソングキャンプ」という制作スタイルも多い……。
ファンを巻き込んだそのビジネスモデルには驚き、そして納得することが多い。読後にK‐POPの緻密に作り込まれたビデオを見ると、さらにその納得感が深まった。
(朝日出版社・1870円)
1989年生まれ。デザイナー、ライター。2015〜20年、韓国で活動。
◆もう1冊
まつもとたくお著『K‐POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)