ストレスを吐き出せないコロナ禍に、自宅で気軽に「セルフカウンセリング」を! 57人のお姫様がアドバイスをくれる、画期的なお悩み相談本

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ストレスを吐き出せないコロナ禍に、自宅で気軽に「セルフカウンセリング」を! 57人のお姫様がアドバイスをくれる、画期的なお悩み相談本

[レビュアー] 遊泳舎


『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』

みなさんは何か悩みがありますか? 厚生労働省の統計では「悩みやストレスがある」と答えた人は全体の半数近くにのぼります。一方で中小企業基盤整備機構による調査では、心理カウンセリングを利用した経験がある人は全体の1割未満と極めて少ない結果に。悩みを抱えていながら、その対処法が分からないという人も多いのかもしれません。

書籍『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』は、そんな現代にぴったりの一冊。恋愛にまつわる悩みなら「人魚姫」、職場の人間関係にまつわる悩みなら「シンデレラ」という風に、様々な悩みに合わせて世界中の童話や神話などから57人のお姫様が登場し、それぞれのお姫様の視点からアドバイスをくれる、新しいスタイルのお悩み相談本です。

自宅で手軽にセルフカウンセリングを実践できるという本書の魅力に迫るため、著者であるライター・心理カウンセラーの秋カヲリさんと、イラストレーターのmomomosparkleさんにお話を伺いました。


左からmomomosparkleさん、秋カヲリさん

人と会いづらい時代だからこそ「ひとりで悩みを整理する」手段が必要

――令和の時代、あるいはコロナ禍の中で、どんなお悩みを抱えている人が多いのでしょうか?

秋カヲリ(以下、秋) たとえばアラサー女性だと「どこまで仕事に力を入れて、どこまで家庭やプライベートを大事にするか」というように、悩みの本質は基本的に今までと変わっていないと思います。ただ、今までは周りの人に共感してもらったり、話しながら整理したりできていたものが、自粛により「気軽になんとなく相談」がしづらくなって、モヤモヤが吐き出せずに悩みが深刻化しちゃうケースは多いのかなと。悩みの種類が変わったというよりは、悩みが深くなりやすくなったのが大きな変化ではないかと思います。

――今回『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を書く上で、「悩みの深刻化」は意識されたのでしょうか?

秋 悩みの深刻化を防ぐ手段として「悩みを自分で吐き出そう」という話を繰り返し入れました。なんとなくモヤモヤしているけど、何が引っかかっているのか分かっていないことがあるので。仕事にモヤモヤしていたとしても、職場の人間関係で悩んでいるのか、今後のキャリアが不安なのか、プライベートにもっと時間を割きたいのか、悩みの原因は人によって違います。だから本の中で「まずは自分で書いてみましょう」とか、「どんどん感情を出してください」という話をして、悩みの原因を探る方法を伝えていますね。ひとりで過ごす時間が増え、人となかなか話せなくても、自分で悩みを整理したり感情を整理したりする方法を知って欲しいと思いました。

――この本は「お姫様がお悩みに答える」という形式になっています。この本ならではの使い方や、他のお悩み相談本にはない特徴はどんな部分ですか?

秋 お姫様たちは、良くも悪くも現代には存在しないキャラクターなので、適度な距離感で話を聞けるのが大きいですね。有名な芸能人の方やタレントの方が書いたお悩み相談本も凄くためになるし、面白いと思うんですけど、「とはいえこの人だから言えるんじゃないかな」と、ちょっと遠目に見ちゃうところもあると思うんです。その点、お姫様は架空のキャラクターだからこそ、著者と自分を切り離しすぎず、漫画のキャラクターに自己投影するような気持ちで境界線を引かずに読めるのではないかと思います。

――読者を問わず、幅広い層の人が気軽に読める本になっているということですね。

秋 やっぱり芸能人や作家の方が答えている本だと、その人が好きじゃないとなかなかうまく飲み込めない部分があると思います。この本は57人のキャラクターが出てくるからこそ「このお姫様の言ってることはすごく分かる」と共感できるページもあれば、あまり共感できないページもあっていいんです。全部を飲み込まなくていいので、自分と相性の合うお姫様を見つけて、そのスタンスを真似てみたりと、好きなものを選ぶバインキング感覚で読んでもらう楽しみもあるんじゃないかなと思います。

――普通、本の著者は一人ですけど、この本は57人の視点で書いてますもんね。

秋 そうですね。それにイラストがあるから、眺めているだけでも純粋に楽しいです。四六始終悩みにじっくり向き合うのも疲れると思うので、「こういう女の子っていいな」という気持ちで憧れまじりに漫画や絵本のような感覚でページをめくってもらって、あまり深刻にならず、気軽に読んでほしいですね。

イラストで描いた「憧れのお姫様たち」から教わったこと

――イラストを描かれる上で、こだわった点や気を遣った点はありますか?

momomosparkle(以下、モモモ) 初めに秋さんの文章をいただくので、性格や回答の内容などから秋さんの作られたお姫様のイメージを一番大事にしました。

――モモモさんのイラストは一言でいえば「ハッピー」で、明るく元気をもらえるイメージです。そこには、読者に対して込めた想いがあるのでしょうか?

モモモ ただ格好良かったり、可愛かったり、見た目が美しかったりというだけじゃなくて、憧れられるお姫様というのは意識しました。たとえば少しぼーっとしている感じのお姫様や、一見怖そうなお姫様もいるじゃないですか。でも、それもそのお姫様の良さだなと思うんです。ちょっと子どもっぽく見られるお姫様は、言い換えればチャーミングなのが魅力ですし、強そうなお姫様は「こういう風になれたらいいな」という憧れの対象でもあるので、キュンキュンしてもらいたいなと思いながら描きました。

秋 私は一番意外性があったのが「虫めずる姫」でした。これはどんなイメージで描かれたんですか?


平安時代の小説に描かれた「虫めずる姫」は、自分らしさを大切にするお姫様

モモモ 虫が好きで周りから変な目で見られているお姫様なので、お姫様っぽくない感じを描きたくて。秋さんの原稿が割と男言葉だったこともあり、女の子だから髪が長いとか、見た目にとらわれなくていいんだなというのを、遥か昔のお姫様だけど先に教えてくれている感じがしたんです。

――57人を描き分けるのはなかなか簡単ではないと思うのですが、キャラクターのデザインには苦労しましたか?

モモモ 秋さんの文章が先に届いて、お姫様のキャラクターがある程度イメージできたので、割と描きやすかったですね。

秋 私はお姫様の性格やキャラクターは考えるけど、容姿までは想像してないから、「なるほど、こういうイラストになったんだ」というのは届いてからのお楽しみで、ワクワクしていました。 

――57人のお姫様の中で、お二人それぞれお気に入りのお姫様は誰ですか?

モモモ 結構みんなに愛着湧いちゃいますよね。自分に強い意思がないタイプなので、それこそ「虫めずる姫」や「鶴姫」のような芯のあるお姫様には憧れます。

秋 私はパンチが効いているお姫様が好きなので、「黒いお姫様」や「わがままな姫」のデザインが来た時は「おおー!」ってなりましたね。「わがままな姫」はアメリカンな雰囲気で、アメリカ文化に精通したモモモさんらしいイラストだなあと思いました。あまり私のテキストに寄せすぎず、モモモさんの個性も出して描いて欲しいなと思っていたので。


グリム童話に登場する「わがままな姫」は、80年代のプロムクイーンを意識したデザインに

あえて「答えを書かない」カウンセラーならではの理由

――制作中、モモモさんは秋さんの原稿をどう感じながら読んでいましたか?

モモモ 読みながら本当に刺激を受けていました。それこそ自分が何で悩んでいるのかが分からないタイプなので、そういう人たちにぴったりの本だなと思いますね。「こういう悩みあるんじゃない?」と提案もしてくれるし、その上でアドバイスもくれるので。お友達と話しててもそんな核心ついてくることってなかなかないじゃないですか。でもそれを嫌じゃない形で言ってくれるから、納得できて、元気ももらえる。愛があって強さもある、秋さんの人柄がなせる技だと思います。

秋 ありがとうございます。そう言ってもらえると、照れる(笑)


本への想いを語る二人

――プロローグに「答えではなくヒントを与える」というような説明がありますね。

秋 お悩み相談といえば「こうしなさい」とか「こんなのやめちゃいなさい」とか、割とスカッと言い切るイメージがあると思います。それはそれで分かりやすいとは思うんですけど、カウンセリングの役割は「自分で考えさせること」だから、そこが普通のお悩み相談本とは違うところで。お悩み相談本でもあり、自分で考える力をつけられる「セルフカウンセリングの練習本」という立ち位置でもあるのかなと。やっぱり人の言う通りに行動すると、ずっと人に聞かなきゃ乗り越えられない依存体質になっちゃうから、自分らしい選択をしてもらえるように考える力をつけて欲しいと思って書きました。

――お悩みに対するアドバイスの中には、たとえば認知行動療法を応用したものなど、はっきりそう書かれているわけではなくとも、専門的な要素が分かりやすく自然に盛り込まれているように感じました。

秋 そうですね。心理学の細かい話まで説明すると読者も疲れると思うので、「心はこういう仕組みになっているから、つらさや苦しさを和らげるにはこういう行動をしたらいいんだよ」という話を簡単にしています。

モモモ 心理カウンセラーさんならではだなと思いました。複雑なことを分かりやすく書くって、なかなか難しいですよね。

秋 悩んでいるときは記憶や思考が鈍っているから、教科書みたいに説明されるとそれだけで気が遠くなって「またいつかやろう」と後回しにしてしまいますよね。本を日常的に読む人、特に長い文章を読む人も減っていますから、一問一答をテーマにして「いかに気軽に読めるか」を意識しました。見出しはお姫様のシンプルな一言でお悩みに回答したり、本文は大事なところだけマーカーを引いたり。普段あまり本を読まない人や疲れている人が、ぼんやり悩んでいるときに手に取って、パラパラめくったときに「これなら読めそう」と前向きになってもらえる本にしたかったんです。

――装丁の雰囲気やページの構成、文章のボリューム感はもちろん、全てのページにイラストが入っている点も、それだけで読書への抵抗がなくなる気がしますね。

秋 お悩み相談本で、これだけイラストが入っている本もなかなかないですよね。さくさくページをめくれるので、そうやって読みながら手を動かすだけでも、前に進めている感覚が生まれると思います。何事も形からなので(笑)

――では最後に、この本を一言で表すと?

モモモ 私は「宝石箱」かなと思います。元気がないときに開くことで、キラキラしたお姫様たちに元気をもらえる本なので。

秋 私は「大人向けの保健室」みたいな感じがしますね。保健室って元気がないときに行くじゃないですか。学校内の治外法権というか、そこだけいろんなことが許される空間みたいになってるし、保健室の先生は隣に座って友達みたいに話を聞いてくれるので、なんでも話せるような気がするんです。そんな保健室の先生が57人いる。それがこの本だなと思うので、心のよりどころになったらうれしいです。

 * * *

○著者プロフィール

秋カヲリ(あき かおり)
1990年、茨城県生まれ。東京女子大卒、都内在住。ADHDのパンセクシャルで、作家・ライター・コピーライター・心理カウンセラーとして活動する一児の母。恋愛依存、育児鬱を経験し、心理学を生命線にして今に至る。ADHDゆえに受験勉強や会社員生活などのルーティーンが極端に苦手で、ITベンチャー・広告代理店・化粧品メーカー・社史制作会社を転々とするが、いずれも1年前後で退社した会社員不適合者。感情や思考を整理できる執筆が精神安定剤で、幼少期から偏愛し生業にする。女の生きづらさやADHDの不適合感とうまく付き合うため心理カウンセリングを実践し、現代女性のゆらぐ心を支えるコラムを多数執筆している。

momomosparkle(もももすぱーくる)
ハッピーでポップなイラストが特徴のバイリンガルイラストレーター・漫画家・エッセイスト。小さな頃から多様な文化に触れながら育ち、カリフォルニアでアートとアニメーションを学んだ後、女子美術大学を卒業。人と話すのが大好きで、かわいいものやおいしいもの、新しいものに目がない THE・てんびん座。著書に『ハピドラ! マンガで紹介 気分ぶちアゲ海外ドラマ』(柏書房)がある。挿絵やウェブ漫画のほか、ドラマレビューやコラムも人気。

遊泳舎
2021年8月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

遊泳舎

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