【聞きたい。】佐々木貴文さん 『東シナ海 漁民たちの国境紛争』

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東シナ海 漁民たちの国境紛争

『東シナ海 漁民たちの国境紛争』

著者
佐々木 貴文 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784040823737
発売日
2021/12/10
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】佐々木貴文さん 『東シナ海 漁民たちの国境紛争』

[文] 寺田理恵(産経新聞社)

■日本はEEZを失った

政府は排他的経済水域(EEZ)内の面積を世界第6位と誇示する。だが、現実はどうか。

「日中や日韓の漁業協定で日本がEEZを失った事実を、国民のほとんどが知らないのではないか。尖閣諸島を含む水域が広大な公海のようになってしまった」

EEZは沿岸から200カイリ。周辺国と重複する水域で、日本が境界線として主張する中間線について、「関係国と相互に承認しているEEZはほとんどない。そういう中で国境漁業が政治に翻弄されやすいものになる」と指摘する。

日本漁船が東シナ海から駆逐され、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の漁場でも追い詰められ―。「国境漁業」の厳しい現実を現地で調査した。大中型まき網漁業は漁場を移すことで全滅を免れ、以西(いせい)底びき網漁業は専業わずか8隻という。

漁船の操業は、食料安全保障や国境の維持につながっている。本書では、尖閣周辺の「唯一の産業ともいえる漁業」を通じ、東シナ海の安全保障を論じた。

「領土を獲得すれば海が付いてくる。戦前の日本は国力増強と漁業開発が一体となって進んだ。今まさに中国が対外進出する中で、中国漁船がテリトリー拡大の一翼を担っている」

日本の遠洋漁業は、領海外をどの国も使用できる原則の下で拡大した。しかし、1970年代に200カイリ体制への移行が始まり、沿岸国が排他的な漁業専管水域を設定。日本が萎縮する間に中国と逆転した。衰退は、国力低下のバロメーターだという。

「政治的なタイミングで先兵となり得る中国漁船に、日本がどう対応していくかが問われる。漁業勢力を維持しなければ東シナ海から産業が消えかねない」

外国人が従事しなければ国境漁業の維持もできず、「日本人海技士の高齢化が進み、次の世代がいない。存続させるか、崩壊を待つか。今が漁業を考える最後の機会だ」と訴えている。(角川新書・990円)

寺田理恵

   ◇

【プロフィル】佐々木貴文(ささき・たかふみ)

漁業経済学者。昭和54年、三重県生まれ。北海道大大学院博士後期課程修了。鹿児島大大学院准教授を経て現在、北海道大大学院准教授。

産経新聞
2022年1月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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