【聞きたい。】柯隆さん 『中国不動産バブル』 チャイナ・リスクに備えよ 

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中国不動産バブル

『中国不動産バブル』

著者
柯隆 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166614523
発売日
2024/04/19
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】柯隆さん 『中国不動産バブル』 チャイナ・リスクに備えよ 

[文] 寺田理恵(産経新聞社)

未完成のマンション、ゴーストタウンのような大型開発地―。中国の国内総生産(GDP)の3割を占めるとされる不動産関連産業の不況が長引き、不動産バブルが崩壊したかどうかを巡って専門家の意見が分かれる中、エコノミストの著者は「2023年に崩壊した」との見方を示す。

バブルの象徴といわれる不動産開発大手、中国恒大集団が21年に初のデフォルト(債務不履行)に陥って以来、同社や同じく開発大手の碧桂園(へきけいえん)の経営悪化が繰り返し報じられている。なぜ崩壊時期を23年とみるのか。

「バブルはいくつかの要因が重なったときに崩壊する。コロナ禍が収束しても経済は回復せず、多くの中小企業が倒産し失業率が上がるとみな消費を控えた。不動産を買う人が減る一方、海外移住する人が手放し、売りが買いより増えた。全体的にデフレになり不動産価格も下がったが、こうした動きに対して政策が打たれていなかった」

本書では、開発会社経営者らの贅沢(ぜいたく)ざんまい、見えを張る国民性、バブル崩壊が政治や社会保障に与える影響…と幅広く取り上げた上で、中国経済の全体像を示すことに注力した。現地調査が難しい情勢だが、在住者からリモートで話を聞いた。人材流出という数値化が難しい部分にも着目。「海外移住者数を中国政府は発表していない。中国にいる友人やアメリカ、カナダに移住した人に話を聞いた」。昨年は中古マンションが一気に売りに出されたそうだ。

経営難の開発会社が倒産に至っていないのは、「処理を急ぐと銀行や地方政府にも飛び火することを中国政府が心配し先に延ばしている」から。バブル崩壊は地方政府の財政や年金にも影響を及ぼし、社会不安が起きる恐れもあるという。「地方政府は、土地の定期借地権払い下げで得られる売り上げの一部を年金ファンドに入れてきた。その財源が得られなくなる。約束されていた額は出ませんから、高齢者の生活が厳しくなる」

中国でデフレが進行すれば、日本経済への影響も避けられない。「個別の企業には情報収集能力が十分にない。(チャイナ・リスクに備えるには)業界団体がコンサルの役割を担うべきだ」と警鐘を鳴らす。(文春新書・1100円)

寺田理恵

【プロフィル】柯隆

か・りゅう 東京財団政策研究所主席研究員。1963年、中国・南京市生まれ。88(昭和63)年に来日。名古屋大大学院修了。

産経新聞
2024年5月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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