『七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり』
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【聞きたい。】増田俊也さん 『七帝柔道記Ⅱ』 団体戦の熱伝わる青春小説
[文] 寺田理恵(産経新聞社)
格闘技に命を燃やす男たちを描いてきた。本書は、漫画にもなった自伝的小説『七帝柔道記』(平成25年刊)の続編。北海道大柔道部時代の、二度と取り戻せない青春の輝きを物語に結晶化させた。「人生観が変わるぐらいの体験をさせてもらった」と、時に感極まりながら語った。
旧帝国大が持ち回りで開催する七帝戦の柔道は、15人対15人の団体戦。勝った者が畳に残る勝ち抜き方式で行われる。主人公の増田は上級生となり、北大の4年連続最下位からの脱出を目指すが―。
読みどころの一つは、団体戦の心理描写。最下位脱出の悲願を背負う重圧。自分の勝敗が、チームの勝敗にどう影響するか。心の揺れを熱い筆致で描いており、柔道の知識がなくても楽しめる。
というのも、寝技で戦う七帝柔道は普通の柔道とルールが違う。膠着(こうちゃく)しても「待て」はなく延々と寝技を続ける。失神や骨折も起こり得るが、選手は危うくなっても「参った」をしない。勝ち抜き戦では、一人の負けがチームの勝敗を大きく左右するからだ。
勝ちに行く「抜き役」と引き分けに持ち込む「分け役」の役割分担があり、分け役は相手がどんなに強くても引き分けねばならない。役割に上下はなく、捨て駒はいない。体格や素質に恵まれずとも、練習量に物を言わせるのだ。
「どんな人にも生きる場所があり、誰もが認められるべきである。そういうことを教わった。自分も北大では抜き役という役割を与えられたけど、古賀稔彦(五輪金メダリスト)や北海道警の特練(日常的に稽古する警察官)と対したら話にならないくらい弱い」
もう一つは、生涯の友となる人々との逸話。柔道部の名誉をかけて喧嘩(けんか)騒ぎを起こし、酔って正体をなくした増田を親友が背負い、猛吹雪の中を1時間半もかけ歩いて帰る場面が印象的だ。「損得なしに僕のために動いた過去は、何があっても消えない」
このシリーズは、自死した後輩の輝かしい時代を伝える鎮魂歌でもある。「人生の無常さと素晴らしさ。両方を感じ取ってほしい。時間も死んだ仲間も帰ってこない。でも(人生は)生きるに値するものだ」。さらなる続編の構想もあるそうだ。(角川書店・2200円)
寺田理恵
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【プロフィル】増田俊也
ますだ・としなり 小説家。昭和40年、愛知県生まれ。北海道大中退。平成18年、『シャトゥーン ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。