歯科医はなぜキシリトールガムを勧めたのか?ビジネスに新たな価値を生み出す「リデザイン」

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ウェルビーイングビジネスの教科書

『ウェルビーイングビジネスの教科書』

著者
藤田康人 [著]/インテグレートウェルビーイングプロジェクト [著]
出版社
アスコム
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784776212232
発売日
2022/09/16
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

歯科医はなぜキシリトールガムを勧めたのか?ビジネスに新たな価値を生み出す「リデザイン」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

昨今、「ウェルビーイング」ということばを目にする機会が増えました。しかし実際のところ、それはがなにを意味するのかよくわからないという方も少なくないはず。では、それはどういうものなのでしょうか?

ウェルビーイングビジネスの教科書』(藤田康人、インテグレートウェルビーイングプロジェクト 著、アスコム)は、次のように説明しています。

ウェルビーイングを簡単に説明するならば、

新しい「幸福」のカタチです。

「体も心も元気で、社会との関係も良好である状態」のことを言います。

ひと昔前の幸せが「地位」や「お金」に象徴されるような

欲望の充足にあるとすれば

ウェルビーイングは、無理をせず

「自分らしく、心も体も健やかに」

生きることに重きをおく

新たな人生観です。(4〜5ページより)

ウェルビーイングは時代が求める価値観であり、そう遠くない未来に日本人のライフスタイルにしっかりと根を下ろすだろうと著者は予想しています。そしてそれは、商品開発やマーケティングに活かせるものでもあるようです。「幸福」がビジネスになるということで、つまりはそれが「ウェルビーイングビジネス」。

注目すべきは、新しい視点から商品の価値を見なおすことを、著者が「関係性のリデザイン」と呼んでいる点。ウェルビーイングの視点で商品を見つめなおせば、いままでにない消費者との接点が生まれるという考え方です。

具体的にそれはどういうことなのか? その点を明らかにするべく、第3章「ウェルビーイングで関係性をリデザインする」内の「新しい価値を生み出す『関係性のリデザイン』とは」に目を向けてみましょう。

歯科医が虫歯を予防するガムを売る?

関係性をリデザインすると、あらゆる業種・業態の企業がウェルビーイングビジネスに参入できるそう。ひとりひとりが自分らしく生きることがテーマになる「個のウェルビーイング」には、それ大きな可能性があるというのです。だとすれば、果たして「リデザインする」とは?

それは、まったく新しい商品やサービスをつくり出すのではなく、既存の商品、サービスに、視点を変えることで新しい価値を見出すことです。

新しい価値が生まれるということは、新しい市場が開拓され、今までお客さまではなかった層にリーチできる可能性が広がります。(104〜105ページより)

たとえばその例として、ここでは虫歯予防の「キシリトールガム」の話が引き合いに出されています。キシリトールが日本で食品添加物として認可されたのは、1997年(平成9年)のこと。著者はこのキシリトールの原材料メーカーのマーケッターとして、日本導入に関わった人物なのです。

重要なポイントは、いまや虫歯予防のガムとしてすっかり認知されているキシリトールガムを世の中に広めるために大きく貢献したのが歯科医だったこと。

一般的に考えれば、虫歯が減っていちばん困るのは歯科医であるはず。しかし、そんな立場にある人たちが、キシリトールガムを積極的に売ってくれたというのです。なぜなら、歯科医のビジネスにおける関係性をリデザインしたから。そうすることによって、歯科医がキシリトールガムを売るメリットが生まれたということのようです。(104ページより)

治療型から予防型への転換

1997年当時、日本には約6万件の歯科医院があり、すでに飽和状態だったそうです。しかも当時、日本の歯科医のビジネスモデルの大半が治療型。つまり虫歯や歯周病などを治療することでビジネスが成り立っていたわけです。当然、少子化で虫歯になる人が減れば収入は減ることになります。

そこで私たちが提案したのは、虫歯が減っても困らないビジネスモデルです。

治療型から予防型への転換です。

その当時、すでにフィンランドやアメリカでは予防型のビジネスモデルで成功していました。

フィンランドやアメリカの人たちは、歯科医院へ虫歯の治療に行くのではなく、虫歯にならないために通っていたのです。(106〜107ページより)

日本の虫歯の有病率はつねに人口の約1割といわれており、ひとりの患者が治療に訪れるのは平均すると3〜5年に1回。しかし予防歯科が普及すると、必然的に来院の間隔は短くなっていきます。来院の回数が増えるのですから、1回の利益は低くても経営が成り立つようになるわけです。

ただし問題は、予防には保険が適用されないこと。保険医療に慣れている日本人は、保険が適用されないとなると財布のひもが固くなってしまいます。したがって、予防のためにお金を払ってもらうには、虫歯が減るという裏づけと目に見える結果が必要だったのです。

そこで大きな役割を果たすことになったのがキシリトールガム。(106ページより)

虫歯を減らすと収益が上がるビジネスモデル

キシリトールは当時、虫歯菌を減らすことが世界中の臨床研究で証明されていた世界で唯一の成分だったそう。虫歯菌が減れば虫歯になるリスクを格段に抑えられるのですから、虫歯菌の多い日本人にとっては朗報です。

とはいえ、「キシリトールガムを噛むと虫歯になりませんよ」などといったところで、本当に虫歯菌が減っていることが確認できなければ誰も信じてはくれないでしょう。

そこで、私たちはフィンランドから虫歯菌の数を計測できる機器を輸入し、歯科医院で測れるようにしました。

キシリトールガムの効果を目で確認できるようにしたのです。

歯科医は、虫歯の治療に来た患者の虫歯菌の数量を測定し、虫歯菌を減らす方法としてキシリトールガムをおすすめする。そして、「1カ月後、もう一度測ってみましょうか」。

1カ月後、その効果を確認できた患者は、またキシリトールガムを購入し、数カ月後歯科医院を訪れて虫歯菌の数を測る。(108〜109ページより)

その結果、歯科医がキシリトールガムを売ることで、歯科医院への来院頻度が増えることに。歯科医院で提供するサービスの中身は基本的に変わらないのに、いままで歯科医院に足を運ばなかった人が続々と訪れるようになったのです。

かくして、「虫歯を減らすと収益が上がる」という新たなビジネスモデルが誕生したのです。患者と歯科医院の関係性、視点が変わったということであり、つまりはこれこそが「リデザインする」ということ。(108ページより)

このように、「ひとりひとりのウェルビーイングを実現するために関係性をリデザインする」という視点に立つと、さまざまなビジネスの可能性が広がっていくはずだと著者は述べています。時代の即したビジネスのあり方を見つけ出すために、こうした考え方を参考にするべきではないでしょうか?

Source: アスコム

メディアジーン lifehacker
2022年11月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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