年賀葉書のヒツジはなぜマフラーを巻いたのか?

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年賀葉書のヒツジはなぜマフラーを巻いたのか?

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 電子メールが普及した頃、日本の切手のデザインはおとなしくなりすぎて、新作の切手にときめかなくなっていた。ぜひ使いたいと思うものになかなか出会えず、買いためた昔の切手ばかり使う日々が続いた。しかし近年はまた昔のように、次の記念切手を楽しみに待っている。

 切手の感じがよくなったということは、作り手のメンバーや雰囲気が変わったということだろうと推測していた。日本で8人だけの切手デザイナーひとりひとりに取材したこの本で、作り手を知る。著者は、日本郵便の切手・葉書室長と同席した機会に「いつか切手デザイナーの本を書いてみたい」と打ち明けたライター。室長の返事は「すぐに取材に来てください」。著者自身が驚くような急展開でできた本だ。

 切手や葉書のデザインには、ニュースになって注目されるものもある。たとえば2015年(未年)の年賀葉書。切手に相当する部分(印刷)には、ヒツジが編み棒を手にし、マフラーを首に巻いている姿。その12年前の未年にはヒツジが編み物をしている図柄だったので、「あのマフラーが完成したんだ!」と話題になった。これを担当したデザイナーは、記念切手「和の食文化シリーズ第1集」で、ちゃぶ台に並ぶみそ汁や焼き魚などをすべて紙粘土のミニチュアで表現した人。見る人を楽しませようとする仕掛けや茶目っ気が、なるほど同じ人のものだ。

 ひとりのデザイナーの仕事をまとめて見ると、発見がある。デザイナーの人生の、決して本人の思いどおりではない紆余曲折のなかに切手のデザインもある。ボツ案もあれば担当させてもらえなかった案件もあり、それでも切手の歴史は進んでいく。もとはサンリオで日本人の好みにあわせたグリーティングカードを作っていた人、郵便局で「集配社員」をしていた人。デザイナーたちの物語を知ると、切手の「向こう側」が少し見えてくる気がする。

新潮社 週刊新潮
2022年12月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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