<書評>『外国人まかせ 失われた30年と技能実習生』澤田晃宏 著
[レビュアー] 関口威人(ジャーナリスト)
◆人手不足埋める「労働力」
オビに「あなたも『奴隷』を使っている」とあってギクリとさせられる。ただ、著者自身は日本の外国人問題を「奴隷労働」というステレオタイプには落とし込まず、むしろ「本当に日本の技能実習制度が奴隷労働なら、誰も日本を目指さない」と明記する。しかし、本書を通読すれば、その言葉の定義以上に恐ろしい日本の現実と未来が浮かび上がってくるのだ。
もちろん、本書にも劣悪な環境で働かされ、経営者から暴力を受けて逃げ出した外国人技能実習生が何人も登場する。その境遇や証言は、コロナ禍で評者の私も取材したことのある外国人たちの話とほぼ重なる。だが、「ペンを持つ当事者」を目指すという著者は、進路情報誌の編集長として、外国にルーツを持つ生徒や外国人留学生の就職支援活動も足掛かりにしながら、より幅広く多様な外国人たちの現実を掘り下げていく。
本書で取り上げる建設や農漁業、縫製や介護といった現場の実情を知ると、なぜこれほどまでに(日本人の)人手が集まらないのか、この先どうなってしまうのかという不安に襲われることだろう。
その人手不足を埋めるため、コロナ前の二〇一九年は約四十万人の技能実習生が日本に在留。さらに留学生が三十万人以上いて、実質的な労働力となっていた。そこに今「特定技能」という新制度が加わっているが、これが実態に追い付いていないどころか、技能実習制度以上に抜け道や責任逃れの余地があり、混乱をもたらしていることがベトナム人支援団体代表者らの対談の章で指摘される。
特に地方では「3K」的な労働現場がまだ残るにもかかわらず、最低賃金は低く、都市部に比べると著しく魅力が下がる。その格差をなくす仕組みの整備は不可欠だ。また、著者はベトナムや中国に比べて失踪者の少ないフィリピンの送り出し体制の可能性と課題を探り、「協働ロボット」への投資を進めるべきだなどの具体的な提言も盛り込む。
そうでなければ「『奴隷』さえも来てくれない国になる」との警告は、極めて重い。
(サイゾー・1980円)
1981年生まれ。ジャーナリスト。著書『東京を捨てる コロナ移住のリアル』など。
◆もう1冊
榑松(くれまつ)佐一著『コロナ禍の外国人実習生』(風媒社)。東海地方などのさらに生々しい実態の報告。