<書評>『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』 香田洋二 著

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<書評>『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』 香田洋二 著

[レビュアー] 半田滋(防衛ジャーナリスト)

◆忖度官僚の文官統制を告発

 地上から洋上へ、大型艦から小型化を検討へ。配備断念した地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージスアショア」の迷走が止まらない。

 振り返れば、この案件は二〇一七年当時の安倍晋三首相が当時のトランプ米大統領に米国製兵器の「爆買い」を迫られ、首脳会談からわずか十カ月で導入を閣議決定した政治案件だ。その後、迎撃ミサイルの第一弾ロケットを安全に落下させられないとわかり、配備断念まで三週間。代替策として「イージスシステム搭載艦」の建造を決めるまではたった半年だった。

 猫の目のようにクルクルと変わる防衛省の方針は、元自衛艦隊司令官であり、海上幕僚監部で防衛力整備を担当した著者がイージス艦の構想から建造決定まで「足掛け六年を費やした」と書くのと比べ、いかに拙速かわかる。

 著者は問題の背景に「官邸主導」の掛け声のもと官邸の権限が圧倒的に強くなり、防衛省背広組が敏感に反応して「官僚の論理」が強まり、制服組の専門的な意見を軽んじているからだと指摘する。

 「イージスシステム搭載艦」は米軍や自衛隊が持つイージス艦と異なる特注のレーダーを採用したことから数千億円単位のコスト増になるという。「一体この責任はだれが取るのか。おそらく誰も取らない」「いい加減なやり方で国民の目をくらませようとするのではないか」と憤る。

 そして断言する。「今のまま防衛費を対GDP比2%に増やしても防衛力強化につながるとは限らない」「政治と自衛隊の間で意思疎通できていなければ、自衛隊が有効に機能することはない」

 この一冊が海上自衛隊の現場トップに上り詰め、防衛省・自衛隊の実態を熟知する元将官によって書かれたことに重要な意味がある。自衛隊は官邸の意向を忖度(そんたく)する防衛官僚が牛耳る「文官統制」に陥り、政治が軍事を統制する本来の「文民統制」は形骸化していると告発する。

 政府が昨年末に打ち出した抜本的な防衛力強化は、空疎な結果に終わりかねないとの予言の書にもなっている。

(中公新書ラクレ・946円)

1949年生まれ。元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)。著書『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。

◆もう1冊 

三宅勝久著『絶望の自衛隊・人間破壊の現場から』(花伝社)。隠蔽(いんぺい)と捏造(ねつぞう)が横行する巨大組織の内側から、苦しむ者たちの声を伝える渾身(こんしん)のルポ。

中日新聞 東京新聞
2023年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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