『アフター・アベノミクス』
書籍情報:openBD
アベノミクスの現場迷走の群像劇
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
酒席で会った某金融機関の知り合いに日銀総裁面白人事の感想を尋ねたら、「ハチのムサシは死んだのさ」の節回しで「アベノミクスは死んだのさ」と答え、さらに真顔で「3本の矢より2発の弾の方が強かった」。
10年続いたアベノミクスは今、進むも地獄、退くも地獄で、言い出した安倍、引き継いだ菅、支えてきた黒田が次々と消え、なにより、コロナ禍由来のインフレにウクライナ戦争が加わって、世界的な超低金利も今は昔。国債・株の爆買い・馬鹿買いや円安誘導で庇いあってきた日銀・政府・大企業は出口なし、前後左右上下のどちらにも身動きの取れない惨状です。
さぁ、こんなニッポンに誰がした? この問いへの答えが詰まっているのが元時事通信記者の軽部謙介による岩波新書3部作の最終巻『アフター・アベノミクス』。今回も金融・経済の理論ではなく、現実を動かしてきた政官学財のヒトと組織に焦点を当てた群像劇で、異次元≒非常識な政策の検証に不可欠な現代史の記録であり、この国が変われない理由、変わると失敗する理由が痛感できる優れたニッポン論でもある(「相棒」の特番の原作にできそう)。
浅知恵でできる金融緩和、財政出動だけに頼るアベノミクスはApenomics、つまりは猿の経済政策だと長らく笑ってきたワタシですが、この本で紹介される、「安倍のミス」に「苦」をプラスしたのがアベノミクスという「ある経済官庁の現役幹部」の言葉も、今はもうジョークに聞こえません。