『ディープフェイクの衝撃』
書籍情報:openBD
真実を溶かしゆくディープなAI技術
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
「百聞は一見に如かず」「見ることは信じること」と我々は思ってきた。しかしその認識は、AIの発達によって終わりを迎えそうだ。
笹原和俊『ディープフェイクの衝撃』は、偽情報の新たな時代について警鐘を鳴らす一冊。ディープフェイクとは、深層学習などのAI技術によって作り出された偽映像や偽音声などを指す。その出来栄えは極めてリアルで、素人目には真偽の判断が不可能だ。
ディープフェイクが注目を集めるきっかけは、ポルノビデオの女性の顔だけを有名女優に差し替えた動画が出回ったことだった。当然ながら、一般人の名誉を貶めるための動画を作り、ばらまくことも可能だ。こうした動画は、偽物だと実証することが難しく、一度拡散されたものは完全にネット上から消すこともできないから、極めて厄介だ。
ゼレンスキー大統領が国民に投降を呼びかける内容のディープフェイク動画が、ハッキングを受けたウクライナのニュースチャンネルのサイトで流される事態もすでに起きている。今後、各種陰謀論やカルトとの結びつきも懸念されるし、逆にジャーナリストが命がけで撮影したスクープ映像が、ディープフェイクだとして否定されるようなことも起こりうるだろう。
フェイク技術は凄まじい進展を遂げているが、対策は技術面でも法律面でもまだまだ追いついていない。真実と嘘を隔てる垣根はもはや溶け消えつつあるということを、我々は認識せねばならないようだ。