『バート・マンロー スピードの神に恋した男』
- 著者
- ジョージ・ベッグ [著]/中俣真知子 [訳]/池谷律代 [訳]/岡山徹 [訳]
- 出版社
- ランダムハウス講談社
- ISBN
- 9784270001820
- 発売日
- 2007/01/27
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:openBD
63歳!でバイクの世界最速記録 変わり者ジイさんのほっこり実話
[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)
『世界最速のインディアン』という映画、タイトルで損をしていると思う。英語原題の直訳だが、私は早とちりで、先住民の若者が幾多の困難を乗り越えて陸上100メートルで世界新記録を出す話かと(笑)。実は「インディアン」というのはアメリカで最も古いオートバイのブランド。この映画は、愛車インディアン・スカウトを40年以上改造し続け、1000cc以下のオートバイ世界最速記録を出した男の実話。いい映画を観たなぁと心がほっこりして満足すること請け合いの超お薦め作品です。
本は、スピードの神に人生を捧げたバート・マンローの伝記。映画は伝記の中の1962年に焦点を当てる。この年、63歳のバートはアメリカ・ユタ州ボンヌヴィルの広大な塩平原で行われた「モーターサイクル・スピード・トライアルズ」に初出走で世界最速記録を打ち立てたのだ。
ニュージーランドの田舎町でバートはブロックを積み上げただけの粗末な小屋に住み(撮影はこの小屋で行われた)、愛車インディアン・スカウトの改造に明け暮れていた。経済的にはギリギリの生活で、工具や部品は身近な物や廃品を利用。望みはスピード記録挑戦者たちの聖地ボンヌヴィルで愛車を限界まで速く走らせることだった。主演のアンソニー・ホプキンスの姿は、変わり者ジイさんだがお喋り好きで優しく、町の人々や子供に好かれたというバートが蘇ったよう。
ニュージーランドからアメリカ西海岸まで船旅、下船後はオンボロ中古車でインディアンを牽引しての車中泊の長旅。アクシデントが発生しても、出会った人の協力と人柄で切り抜ける様子はロード・ムービーとしても楽しめる。脚色は何か所かあるが、資金が乏しく倹約しながら出走を待つ彼のために、参加のライダーやモーターファンが募金活動をし、プライドを傷つけないように「スポーツマン・オブ・ザ・イヤー」の名目で寄付金を贈呈したのは本当の話。誰もが彼の人柄と年代物バイクで爆走する姿に魅了されたのだ。
バートは事故で重傷を負う度に生還し、77年にレース引退。翌年、78歳でスピードの神の元へ旅立った。