<書評>『アメリカ 流転の1950−2010s 映画から読む超大国の欲望』丸山俊一+NHK「世界サブカルチャー史」制作班編 著

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アメリカ 流転の1950-2010s -映画から読む超大国の欲望

『アメリカ 流転の1950-2010s -映画から読む超大国の欲望』

著者
丸山俊一+NHK「世界サブカル [著]
出版社
祥伝社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784396618025
発売日
2023/02/01
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『アメリカ 流転の1950−2010s 映画から読む超大国の欲望』丸山俊一+NHK「世界サブカルチャー史」制作班編 著

[レビュアー] 秋山千佳(ジャーナリスト)

◆名作で読み解く大衆の本心

 単純な映画の解説本ではない。副題が示すように、超大国・アメリカの“欲望”の変遷を、往年の名画から読み解く試みに軸足がある。著者や証言者の解説を読み進めれば、「大衆自身も自覚できない欲望」がスクリーンに映し出され、時に大衆を呑(の)み込んできたことを実感させられる。そして時代背景を知ることで個々の映画の見方が変わる。一冊で二度おいしい本なのだ。

 たとえば『ローマの休日』(一九五三年)。証言者は語る。「素晴らしいロマンティックコメディの映画であると同時に、共産主義者に対する恐怖と猜疑(さいぎ)心が、いかに五〇年代の空気を形作っていたかを示す作品なのです」と。ハリウッド史上初の全編海外ロケとなった理由、脚本家の正体隠しといった、ロマンティックとは正反対の事情が示される。

 欲望は細部に宿る。『卒業』(六七年)では、エリートの主人公に就職先のアドバイスをする男が一言。「プラスチック」。大量生産・大量消費の時代、輝かしい業界は石油由来素材とともにあったのだ。「まがい物という皮肉な意味」でもあるという著者の指摘を踏まえれば、映画の展開を暗示するようでもある(この一言を確認したくて、一旦(いったん)本を置いて観てしまった)。

 二十一世紀に登場したSNSは「可能性」を生み、やがて「分断」を招いた。デジタル資本主義が欲望を煽(あお)り、自分の抱く欲望が本当に自らのものかも曖昧なこの時代。『パターソン』(二〇一六年)は人生の主体性をつなぎとめ、幸せを噛(か)みしめる術を詩的に描きだす。

 こうした名作を本書で追ううち、アメリカ現代史をおさらいできるというオマケまでついてくる。

 言うまでもなく、アメリカの欲望は日本とも地続きだ。自分たちが今、どんな世界に生きているのか。著者は「今を知る為には過去に飛ぶ他ない」と言う。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(一九八五年)に出てくるタイムマシン「デロリアン」は今もまだない。けれど、我々は映画によって過去に飛び、知ることを楽しめるのだ。(祥伝社・2200円)

丸山 NHKエンタープライズエグゼクティブ・プロデューサー。本書はNHKの番組「世界サブカルチャー史 欲望の系譜<アメリカ編>」を書籍化。

◆もう1冊

デーヴィッド・マークス著『AMETORA』(DU BOOKS)。奥田祐士訳。米ファッション文化を手本に新潮流を生んだ日本人のノンフィクション。

中日新聞 東京新聞
2023年3月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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