「サケの人」「水槽の人」「漫画の人」水族館に魅せられた人々が面白い!

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水族館人 今まで見てきた景色が変わる15のストーリー

『水族館人 今まで見てきた景色が変わる15のストーリー』

著者
TSURINEWS [著]
出版社
文化工房
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784910596037
発売日
2023/04/19
価格
2,310円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「サケの人」「水槽の人」「漫画の人」水族館に魅せられた人々が面白い!

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 さいごに水族館に行ったのはいつですか。子育てが終わると、なかなか行く機会もないかもしれない。でも最近の水族館はそれぞれに工夫をこらしてがんばっている。この夏、どこかの水族館に行ってみてはいかがでしょう。

 水族館で働く人に取材をした本はこれまでにもいくつか読んだことはあるのだが、それらは、生き物の飼育や輸送、健康管理、食生活や繁殖の謎を究明することの難しさなどがおもな話題だった。もちろん、それらはすべて興味深い話だ。でもこの本は、水族館という「場」をもっと多角的にとらえている。

「人」が主役である。それぞれ、たとえば「サケの人」「クラゲの人」などと紹介される。インタビューはその人の語りのかたちに整理されていて読みやすい。展示としてサケやクラゲを生き生きと美しく見せるのは当たり前のことで、さらに本物の川の流れを水族館の中に引き込んで天然のサケの遡上を見せたり、食材として流通していない種類のクラゲを食べる会を開催したりと、それぞれに大胆な挑戦もしている。どの水族館も展示そのものには自信をもっているが、多くの取材者が来るイベントによって水族館の知名度が上がり集客につながるため、話題づくりには館の命運がかかっているのだ。

 展示する生き物を世界の海から連れてくる「手配の人」や、世界的アクリル水槽メーカーの「水槽の人」、国際コンペを勝ち抜いて水族館を設計した「建築の人」。生き物に目を奪われている時にはなかなか思い至らない、館を後ろから支える人たちからも、たくさんのいい話を聞いている。さらには、水族館が舞台になった作品を発表している「漫画の人」や「小説の人」も登場する。水族館の入場者も、こうした作品の作者や読者も、全員が「水族館ワールド」を構成する一部だというとらえ方がいい。自分もちょっと、そこに参加してみたくなる。

新潮社 週刊新潮
2023年6月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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