目の前の人にただ売ろうとしない。「売れる営業マン」がやらない行動習慣とは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『トップセールスが絶対やらない営業の行動習慣』(渡瀬 謙 著、日本実業出版社)の著者は、売れない営業からトップセールスになった実績を持つ人物。注目すべきは、自身の経験を振り返ったうえで、「売れる人と売れない人の差は、ほんのわずか」だと述べている点です。
つまり、結果を大きく分けていたのは、見た目ではわからない“無意識レベルの小さな違い”だというのです。そこで本書においては、その小さな差を埋めるための策としての、“売れている人が当たり前のように行っている行動習慣”に着目しているわけです。
重要なのは、自分では気づかずにやっていた「売れない行動」を、きちんと認識することだそう。
・お客さまの心が離れてしまったのは、あのひと言が原因だった
・信頼を失ってしまったのは、あの小さな行動をしたからだった
・お客さまを失望させたのは、よかれと思ってやったことだった
(「売れる人との違いは、小さな『行動習慣』にあった!――はじめに」より)
こういった、失敗の原因を客観視することが必要であるということ。
逆にいえば、売れない人が売れないのは、こういった小さなミスが原因だったことを理解していないから。一方、売れている人には、そういう「致命的なミスをしない」という共通点があるというのです。
本来の営業の仕事は、お客さまの言動をしっかりと受け止めて、お客さまに適した対応をすることです。
売れている人の行動習慣は、そのすべてがお客さまに寄り添ったものになっています。小さなことのように見えても大きな意味があります。
(「売れる人との違いは、小さな『行動習慣』にあった!――はじめに」より)
こうした考え方に基づいて書かれた本書のなかから、きょうは第4章「売れる営業の『思考』の習慣に焦点を当ててみたいと思います。
目の前の人に売ろうとしない
もし目の前にお客さまがいたとしたら、条件反射のように売ろうとしてしまうのではないでしょうか? というより、営業なのだからそれは当たり前だと考えるかもしれません。
ところが、必ずしも、いつでもどこでも誰にでも売り込めばいいというわけではないと著者はいうのです。それどころか、売れない理由は「売りたい」気持ちにあるのだとも。
新規開拓に尽力し、ようやくお客さまとアポがとれたとしたら、「売りたい!」という気持ちが強くなったとしても無理はありません。そのため、いつも以上に気合いが入って、売る気満々で面談に臨むことになるでしょう。
しかしお客さまは、そんな営業マンのことをどう感じるでしょうか?
目の前の相手が売るための気合に満ち満ちているほど、「いい対応をしてしまうと、どんどん売り込みが強くなっていくのではないか」という疑念が大きくなり、警戒心が強くなっていくはずです。
つまりは営業マンの“売りたい圧力”が強いほど、お客さまは心の扉を閉ざしてしまうのです。したがって、そこから抜け出すことが重要だということになります。
いくらこちらが気合いで話をしたとしても、お客さま側にニーズがなければ売れません。欲しくもない商品を熱く語られても迷惑なだけです。断ってもあきらめない営業マンに対して、お客さまは「もう会いたくない」と思います。
ここが売れない人とトップセールスの分かれ目なのです。(131ページより)
忘れるべきでないポイントは、「目の前の人になんとか売ろうとするか」、「目の前の人に売れないことがわかった時点で方向転換するか」、どちらを選ぶべきかということ。
いうまでもなく、売れている人は「きょうは売れない」とわかった時点で売り込むことをやめるわけです。それ以上やっても無駄ですし、ガンガン売り込むほど逆に嫌われてしまうからです。
でも、決して小さくはない可能性がここにあるのも事実。「売らない」と決めたらその場では売れませんが、それでも、のちのち売れる可能性は残るということです。つまり売れている人は“いまは買わないけれどそのうち買ってくれるかもしれないお客さま”をたくさん抱えており、そこにこそ可能性があるのです。
だいいち目の前の人に売ろうとばかりしていると、そのうち買ってくれるであろうお客さまを取り逃してしまうことにもなって危険。つまり、「いま、なんとしてでも売ろう」ではなく、“その先”を見据えたアプローチが大切だということなのでしょう。
会う人すべてに売れるわけではなく、売れなくても普通。そして、“そのうち買ってくれるかもしれないお客さま”とどう向き合うかを考えて行動する。そうすれば、営業としての幅が大きく広がっていくわけです。(130ページより)
お客さまの心のなかを読み取ろうとしない
売れない営業だったころの著者は、聞いて答えてもらうよりも、こちらがいい当てたほうがいい、すなわち、相手の心のなかを察することができるほうが、営業として優秀だと考えていたそう。でも、それは間違っていたと、いまでは感じているのだとか。
当時のトップセールスの営業を見て痛感しました。
その人は、簡単なことでもとにかく聞きます。
「それってどういう意味ですか?」
「なぜそう感じたのですか?」
こちらでもある程度は想像できそうなことでも、素朴に質問するのです。
すると、お客さまはなぜかうれしそうに話しはじめます。よくぞそれを聞いてくれましたと言わんばかりに。
それに対して、売れる営業マンは「そうだったんですか!」「それはすごいですね!」などと楽しそうに聞き入ります。お客さまはますます明るい表情になります。
その流れで、
「この商品についてご興味はありますか?」
と、気になっていることを聞くと、お客さまは本音で話してくれやすくなります。(135〜136ページより)
お客さまの心のなかを読もうとしても、そんなことはできなくて当たり前。できると豪語するならば、それは営業マンの勝手な思い込みでしかありません。
そして、そんな中途半端な状態でお客様と接するよりも重要なのは、お客さまの口から本音を話してもらえるように働きかけること。それこそが、上級者の考え方だということです。(134ページより)
本書の内容を自分自身の行動とくらべながら、ひとつでも修正点を見つけてみてほしいと著者はいいます。なぜならそれを改善することが、これから営業という仕事を続けていくうえでの大きな力になるはずだから。そうやって地道な積み重ねをしていけば、やがて売れる人になれるということです。
Source: 日本実業出版社