『とまる、はずす、きえる : ケアとトラウマと時間について』
- 著者
- 宮地, 尚子, 1961- /村上, 靖彦
- 出版社
- 青土社
- ISBN
- 9784791775491
- 価格
- 2,200円(税込)
書籍情報:openBD
『とまる、はずす、きえる』宮地尚子、村上靖彦著(青土社)
[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)
トラウマ研究者で臨床に携わる宮地尚子と現象学研究を元に看護師などの言葉に耳を傾ける村上靖彦の対談集。「それる」「もどる」「とまる」「すぎる」「はずす」「きえる」という、人と人が関わるときの身振りや時空間にまつわるキーワードから連想が引き寄せられ言葉が紡がれる。これまで概念ではなかったものに立ち止まる姿勢は文学に近い。
2人が念頭に置いているのはトラウマやケアの当事者たちが抱える言語化しにくい葛藤だが、前掲の動詞が出発点となっているので、他者と関わりをもつ誰もが自分の問題として読むことができる。たとえば、他人とのリズムのずれは誰しも経験するだろう。そこから、脳死状態にある家族と共に長年過ごすヤングケアラーが周囲との間に感じる時間のずれを想像することは不可能ではない。認知症の家族に記憶を共有されなくなることの寂しさも。
トラウマ的な出来事の後に時間がとまるといった現象だけでなく、ブリコラージュで既存のルールをはずすといった身振りに注目し、辛(つら)い現実をどんなふうにやりすごせるかを考えているところも本書の魅力だ。