『頭のいい人が問題解決をする前に考えていること』
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脳をベストな状態に整え、やる気を引き出すために重要な3つのステップ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『頭のいい人が問題解決をする前に考えていること』(下村健寿 著、アスコム)の著者は30代のころに約8年間、イギリスのオックスフォード大学で研究をしていたという実績の持ち主。最先端の知識が集まる環境下で研究に従事するなか、人がいつか解決しなければならない問題と何度も戦ってきたのだとか。
そんな毎日を送っていると、ある日突然、ふとした瞬間に「そうだったのか!」と問題解決のアイデアを思いつくことがあるそう。俗に「降ってきた」といわれる状況ですが、ご存じのようにそれは再現するのが難しいことだと考えられてきました。
ですが、この「降ってきた!」を得るために、偉人たちが「降りやすい状況」を意図的に作り出していたことが、近年の研究からわかってきています。
それらはすべて、頭がいいからできたわけではなく、私のような研究者から小学生くらいのお子さんまで、誰にでもできる方法でした。(「まえがき」より)
つまり人間の脳には、確率や統計だけでは捉えることのできない「ひらめき」を筆頭に、偶発的に飛躍的な発展をする能力や応用力が備わっているということ。しかし、そんな“人間ならではの能力”は、本やインターネットからの情報をただ頭に入れるだけでは引き出せないといいます。
大切なのは、脳にどう働いてもらうか。その力を使いこなした人たちだけが、AI技術が急速に普及する時代を生き抜くことができるということです。そこで本書では、これからの時代に必要となる“正しい脳の働かせ方”を解説しているわけです。
そんな本書のなかからきょうは、2章「頭の『やる気』を引き出す3ステップ」に焦点を当ててみたいと思います。仕事のパフォーマンスを上げるためには、脳をベストな状態に整えておくことが重要だというのです。
STEP 1. 「90分単位の睡眠」で思考をクリアにする
著者はここで、「ウルトラディアン・リズムを整える」ことの重要性を説いています。それは、睡眠のリズムを最適な状態に保って脳と体の質を向上させ、脳のやる気を引き出す土壌をつくる技法。
これまで、睡眠は脳を休めるためにあると考えられてきました。しかし近年の発見から、睡眠は脳だけでなく、全身のパフォーマンス向上にも重要な役割を果たしていることがわかったのだそうです。いいかえれば正しい睡眠は、脳と体のパフォーマンスの向上に欠かせないということ。
睡眠にはリズムがあり、1日単位で起きるリズムを、ラテン語で「おおよそ1日」を意味する「サーカディアン」ということばを用い、「サーカディアン・リズム」と呼びます。対して数時間ないし数分単位の生体リズムのことを「ウルトラディアン・リズム」といいます。
睡眠は浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)を、約90分ごとのリズムで繰り返していますが、深く眠るほど疲れがとれるというわけではないようです。事実、長時間しっかり眠ったのにパフォーマンスが悪いということがありますが、それは「ウルトラディアン・リズム」を無視した睡眠をとっているから。
起きたときに寝覚めがよく、1日のパフォーマンスが上がるのは、睡眠周期の後ろ側に現れる浅い眠りの瞬間に起きた場合です。
つまり、長時間寝ても深い眠りのときに無理やり起床すると、まだ眠い感覚が日中も残ってしまい、結果的に全身のパフォーマンスも落ちてしまうのです。
したがって、脳と全身のパフォーマンスを上げるためには、90分単位の睡眠(つまり90分の倍数の睡眠時間)をとることをすすめます。(67〜68ページより)
大切なのは、寝る時間をしっかりと決め、毎日その時刻にベッドに入ること。そして、どれだけの長さの睡眠をとるにしても、90分単位での睡眠を実践すれば、脳と体のパフォーマンスを向上させる土壌がつくれるわけです。(64ページより)
STEP 2. レジスタンス運動でBDNFを増やす
脳のパフォーマンス向上はインプットした情報を活用することで行われていくため、情報をきちんと「長期記憶」として脳に刻み込むことが重要。
インプットされ、重要と判断された情報は「記憶回路」として脳に記憶されるので、土台となる記憶回路を最適な状態にしておければ、脳のパフォーマンス向上につながるわけです。
記憶回路こと神経回路は「神経細胞」と「シナプス」でできているので、両者を最高の状態に保てれば、神経回路の形成と維持、活性化が起きます。この神経細胞とシナプスの状態を最適化し、パフォーマンス上昇を促す効果的な方法は運動だそう。
脳のなかには、BDNF(脳由来神経栄養因子 Brain-derived neurotrophic factor)と呼ばれる物質があります。
このBDNFは、脳のパフォーマンスを向上させるカギとなる物質です。(71〜72ページより)
そして、BDNFを脳内に増やすためには、運動が効果的だということ。内容としては、息が切れる程度のウォーキング、またはジョギングがよいそう。習慣的に行うことによって脳内のBDNFが増え、ハイパフォーマンスを発揮する土台をつくることができるわけです。(70ページより)
STEP 3. 「快感回路」を刺激する
人がなにかを成し遂げる際にカギとなる物質が「ドーパミン」。脳に対して「欲求が満たされた」という感覚、つまり快感を生じさせるのです。
この「快感」を求めて、人は、一生懸命物事に取り組みます。そして、一生懸命に取り組んでいるとき、脳はハイパフォーマンスを発揮しています。
つまり、脳のパフォーマンスを向上させるということは、物事を楽しむ、すなわち快感を感じることです。(76ページより)
とはいえ、社会生活を送るうえでは、「いやなこと」「気が進まないこと」をしなければならないときもあるもの。では、どうしたらいいのでしょうか? この問いに対して著者は、「気が進まない仕事をするときは、求められている成果の1.2倍の成果を生むことを目標にしましょう」と答えています。
たとえば、新製品の報告書の提出を上司に求められた場合、「新製品の優れている点を列記」すれば報告書としては十分であったとしても、「過去の同様の商品との比較」という独自の視点を入れ、さらにクオリティの高い報告書の提出を目指す、といったことです。(79ページより)
そうすれば、いやな仕事に対してハードルの高い目標が設定されるため、仕事に対する感情ではなく、「目標を達成すること」に意識が向くわけです。
そして目標が達成できれば快感回路が刺激されるので、いやな仕事も「ゲーム」として進められるはず。しかもその仕事の結果は、当初より質の高いものになる可能性が高いのです。(74ページより)
自分が持っている脳のパフォーマンスを最大限に引き出し、最大限に活用することができれば、激動の時代をも乗り越えていけるはず。だからこそ、ぜひとも本書を参考にしたいところです。
Source: アスコム