『なぜヒトだけが老いるのか』
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経験積んだシニアをポジティブに再定義
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
日々白髪とシワが増えてゆく鏡の中の自分を見て、なぜ人は老い、死んでゆかねばならぬのかと嘆かぬ者はいないだろう。老いと死は誰もが考えなくてはならず、それでいて誰もが考えたくない問題だ。
小林武彦は、その著書『生物はなぜ死ぬのか』で、生物学の視点から「死」の意味を論じ、同書は二〇万部に迫るベストセラーとなった。そしてその続編的な位置づけの新刊『なぜヒトだけが老いるのか』では、人間の老化というテーマに挑んでいる。
少々意外なことだが、多くの動物は生殖可能な期間が過ぎるとすぐに死んでしまう。数十年かけて徐々に体の機能が衰え、長い老後を過ごす動物は、ヒトくらいのものなのだ。
ではなぜ、ヒトにだけ極めて長い老後があるのか?その理由として、孫の世話のためにヒトは長生きするという「おばあちゃん仮説」が有力視されてきた。さらに本書では、知識・技術・経験を持ち、集団をまとめる能力を持った「シニア」の力が、社会生活を営むようになった人類にとって不可欠であったからだと説く。確かに、あらゆる集団で指導的立場にあるのは、腕力に優れた若者ではなく、経験を積んだ老人たちだ。
であれば、若い時には自分のために競争・挑戦してきた者たちも、年を取ったらよきシニアとして、公共のために力を振るうべきだと著者は述べる。年を取ることの意義をポジティブに再定義し、新たな目標を与えてくれる一冊だ。