<書評>『男たちの部屋 韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』ファン・ユナ 著

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男たちの部屋

『男たちの部屋』

著者
ファン・ユナ [著]/森田 智惠 [訳]
出版社
平凡社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784582824988
発売日
2023/06/23
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『男たちの部屋 韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』ファン・ユナ 著

[レビュアー] ひらりさ(文筆家)

◆親密性が生む女性蔑視

 ずっと不可解なことがある。職場の飲み会や会食の後、「ここからは男だけで…」と、男性だけがキャバクラに流れていく現象だ。業務の一環である商談ですら「男だけの集まり」が付随することにモヤモヤしていた。いや、親睦だとしても、キャバクラや、喫煙所や、サウナなどで男たちの親密性が育まれたとき、それはビジネス上の意思決定や各人の評価に影響し、男女の平等を阻むはずだ。こう考えられるようになったのは、フェミニズムを通じて「ホモソーシャル」という概念を知ってからだった。

 女性を排除して成り立つ異性愛男性同士の結びつきであるホモソーシャルだが、現代においては、客体化/商品化された女性性が、その強化に重要な役割を果たしてきた。オンライン・オフラインを問わず、男性「たち」の空間が女性蔑視とそれに伴う性暴力を媒介に保たれるメカニズムをあぶり出すのが本書である。著者は、反性売買の活動家であり、ソウル大の博士課程にも籍をおくファン・ユナだ。

 「バーニングサン事件」や「n番部屋事件」など、韓国全土を揺るがせた、組織的性暴力事件の分析も読み応えがある本書。だが白眉は、彼女が繊細に拾い上げた、韓国で「遊興」店と呼ばれる(日本で言う水商売の)飲食店で働く女性キャストたちの声だ。

 「退勤する瞬間から、少しずつ仮面がはがれ落ちていく感じです…私っていったい誰? 働いているときの私って私なのかな?」「(接待の難しさを問われ)私を同等に扱わない人たちに、彼らの人格レベル以上のものをしてあげないといけないこと」

 彼女たちの言葉には、国や職業関係なく、「女」としての役割を押し付けられた人間ならば、確実に共感できるものがあった。男性「たち」の空間に求められる女とそこから排除される女は、これまで分断されてきたが、どちらも、同じ痛みや傷つきの中にあるのだ。フェミニズムにとって、だけでなく現代資本主義社会を分析する上での新たな必読書を生み出した著者に、心からの喝采を送りたい。

(森田智惠訳、平凡社・2860円)

1988年生まれ。韓国の人権活動家。

◆もう一冊

『女ぎらい ニッポンのミソジニー』上野千鶴子著(朝日文庫)

中日新聞 東京新聞
2023年9月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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