『マルクスの名言力』
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<書評>『マルクスの名言力 パンチラインで読むマルクス入門』田上孝一 著
[レビュアー] 米田綱路(ジャーナリスト)
◆現代に蘇るメッセージ
マルクスには数々の名言がある。たとえばマルクス主義研究の殿堂だったベルリンのフンボルト大学ロビーにある碑銘「哲学者たちは世界を様々(さまざま)に解釈してきただけだが、大切なのはそれを変えることである」などは有名だ。今風にいえば彼のパンチライン、決め台詞(ぜりふ)である。
本書はそんな名言に隠されたメッセージを蘇(よみがえ)らせる。古典として読み返しつつ読み替えていく。「マルクスの慧眼(けいがん)をその歴史的限界から救い出し、現代的にアップデートする」ための入門書だ。
資本主義の中で人間は、自分が作り出した物に支配されて「物件化」する。労働は創造的な自由や美しさを奪われ、売買される商品と化す。この疎外状況を克服し、自立した個々人が連帯して、兄弟姉妹的な友愛で結ばれる社会をいかに構想するか。マルクスの問いは今日も、理論と実践のテーマであり続けている。
動物倫理学の専門家でもある著者は、人間中心の限界を超えて、地球規模の変革の方法論としてマルクスを生かす途(みち)を示す。人間への信頼を学ぶ倫理の書だ。
(晶文社・2090円)
1967年生まれ。立正大学の研究所研究員、哲学・倫理学専攻。
◆もう1冊
『99%のためのマルクス入門』田上孝一著(晶文社)