【聞きたい。】伊与原新さん『宙(そら)わたる教室』

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【聞きたい。】伊与原新さん『宙(そら)わたる教室』

[文] 三保谷浩輝


伊与原新さん

■青春を取り戻す科学小説

「青春科学小説!!」と帯にあり、実際に高校生や書店員から「一番好きな青春小説」などの反響も届いている。だが、「僕自身は、青春小説とは思っていませんでした」と明かす。

物語の舞台は東京都立高校の定時制。読み書きに難がある20代の岳人、フィリピン料理店を営む40代のアンジェラ、ストレス障害から保健室で過ごす10代の佳純、集団就職で上京し苦労を重ねた70代の長嶺。それぞれの事情を抱えた生徒たちが理科教師の藤竹に導かれ、科学部を結成。「火星のクレーター」再現の実験に挑む。

「大人の小説」として書いたつもりだった。高校生に相当する世代の登場人物が少ない上、自身も研究者的な藤竹に感情移入することが多かった。しかし、読者の反響から「科学に出合うことで青春を取り戻し、新たな一歩、可能性を追求するという意味では青春小説なんだなと再発見しました」。

着想を得たのは、大阪府立高校定時制科学部の生徒たちの研究が、平成29年の日本地球惑星科学連合大会などで数々の賞に輝いた実話。指導した教諭の熱い思いと生徒の奮闘に感銘し執筆したと、あとがきにある。

物語や人物造形はオリジナルだが、「先生から、定時制高校の感じがよく出ていると言っていただけた。科学部の活動や苦労話、実験データなどもふんだんに盛り込みました」。

藤竹は、科学部に入った生徒たちが変わっていく様子を「実験」と呼ぶ。ただ、その根底に相手への信頼があり、それが教育なのだと大阪の先生から教えられたという。自分の生き方を見つけていく生徒の姿とともに教師の在り方も描かれる。

こうした経緯もあって、「今回は書かされた、書かせてもらった感が強い」という。科学や研究者の世界を描いたこれまでの作品と比べ、「登場人物に、どういうふうに生き生きとリアリティーをもって動いてもらうかに注力した」と振り返る。

それだけに「(作風が)冷たい、落ち着いたトーンなどとよくいわれますが、これは今までで一番熱い小説かもしれない。熱い小説を書きたいと思っていたわけではなくて、こういう事実があるから熱くなっちゃうという感じ。作家としての幅も広がったかな」とも話した。

確かに、青春には遠くなった記者にも心躍る場面が多く、続編も期待したいところ。

「気やすく書きますとはいえませんが、大阪の先生から、また面白い話を聞いたら書かされちゃうかもしれません(笑)」

ぜひ書かされてほしい。(文芸春秋・1760円)

評・三保谷浩輝(文化部)

   ◇

いよはら・しん 作家。昭和47年、大阪府生まれ。神戸大理学部卒、東京大大学院理学系研究科博士課程修了。大学勤務を経て平成22年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビューした。著書に『月まで三キロ』『八月の銀の雪』など。

産経新聞
2023年11月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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