『気候崩壊後の人類大移動』
- 著者
- ガイア・ヴィンス [著]/小坂 恵理 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784309254616
- 発売日
- 2023/08/23
- 価格
- 2,970円(税込)
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『気候崩壊後の人類大移動』ガイア・ヴィンス著
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
数十億人の移住 計画的に
今年の夏の世界の平均気温は統計開始以来最高を記録したというが、このまま気温が許容度を超えて上昇した場合、地球や人類はどうなるのか。本書はグローバル・サウスを中心に火災、猛暑、干ばつ、洪水により広い地域が居住不可能になると予想する。もちろん、農業も大打撃を受け、世界人口が100億人へ向けて増大する中で食糧危機も発生する。その結果、今後10億人単位の人口が移住を余儀なくされる可能性があり、その状況を本書は詳細に予測する。
現在でも多くの先進国で移民への反対論が強い中、数十億人規模の移住は世界にとって大問題となることは確実である。だが著者は移住こそが問題解決の決め手であり、権限を持った国際機関の監視の下、「計画的かつ慎重に大移動を進めなければならない」と説く。移民受け入れを決断すれば、グローバル・ノースの先進国が悩む労働力不足が解決する上、気温上昇により居住適地となった極地や寒冷地域で都市建設レベルの開発が行われ世界経済の一層の発展が見込め、世界の貧困問題の解決にも資するというのだ。
本書の予想する人類の大移動が生ずるほどの気候変動は極論だとの意見も根強いだろう。また移民が経済発展に貢献するのは事実だとしても、想像を超える人々の移住は大混乱が起きるだけだという批判もあるだろう。しかし対応が遅きに失し、誤った手を打ったがためにその解決に大きな代償を払ってきたのが人間の歴史である。本書が描く近未来の姿をまず直視してみることが必要だ。
気候変動対策の掛け声とは裏腹に、目先のエネルギー確保という現実論の台頭でその進捗(しんちょく)がペースダウンすることになると、人類大移動というシナリオは現実味を増すだろう。本稿執筆中に、地球温暖化で水没危機の島国ツバルからオーストラリアへの移住協定に両国が署名したとの報道があったが、気候変動による移住は既に現実となっている。気温上昇を防ぐ努力に加え、人類大移動にも備え今から議論を深めて行くことを訴える本書は一読の価値がある。小坂恵理訳。(河出書房新社、2970円)