いつぶり? 真逆? 校閲記者も迷う日本語表現これは使っていい「ことば」なの?

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校閲記者も迷う日本語表現

『校閲記者も迷う日本語表現』

著者
毎日新聞校閲センター [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784620327907
発売日
2023/09/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

いつぶり? 真逆? 校閲記者も迷う日本語表現これは使っていい「ことば」なの?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

2017年に発売された『校閲記者の目』(毎日新聞校閲グループ 著、毎日新聞出版)は、2011年にスタートしたツイッター(現・X)とその翌年に開設されたサイト「毎日ことば」(現「毎日ことばplus」)などに書かれたことをまとめたもの。

きょうご紹介する『校閲記者も迷う日本語表現』(毎日新聞校閲センター 著、毎日新聞出版)は、そちらに続く第2弾です。

『校閲記者の目』発売当時は、それに続くものなどないと考えていたそう。ところが、そののちサイトで始まった「ことばの質問」が校閲記者の日々の悩み、迷いをよく映し出したものなっていたため、それを一冊の本として構成できるのではないかと思い立ったのだといいます。

初めて見る言葉や言葉の使い方に、読者が違和感を抱かないだろうかと悩みます。そのうち広く使われて定着していく過程を日々の仕事の中で校閲記者たちは感じます。この過程を第1章と第2章に分けてみましたが、皆さんはどう感じるでしょうか。(「はじめに」より)

その点を確認してみるために第1章「この言葉、使っていますか?」と第2章「新たな言葉が定着していく」のなかから、気になるトピックをそれぞれひとつずつ抜き出してみたいと思います。

「おかしい」と感じつつも使われる「いつぶり」

[質問]

やっと会えた! 会うのは「いつぶり」だろうーー「 」の中、どうですか?

[回答]

おかしくないし、自分でも使う……28.8%

おかしくはないが、自分では使わない……8.5%

おかしいと感じるが、使うことはある……26.7%

おかしいと感じるし、自分では使わない……36.0%

(12ページより)

「いつぶり」という表現に関する評価については、「おかしい」とした人が3分の2近くと多数を占める一方、使うか否かという観点からは「使う」とした人が過半を占めるという興味深い結果が出たそうです。

つまり、「おかしいとわかっていても使う人がいることで広まっている用法」だということ。なお、明鏡国語辞典3版は接尾語「ぶり」の項目において、「注意」として次のように説明しているようです。

「大学二年ぶりの再会」など、「ぶり」の前に<物事の起点>がくる言い方は誤り。

「ぶり」の前には<経過した時間>がくる。

また、「先生に会うのはいつぶり?」など、時を尋ねるのに「いつぶり」と言うのも誤り。正しくは「何年ぶり」「いつ以来」。(14ページより)

この説明のうち、「また」以下の「いつぶり」に関する部分は2版(2010年)にはなく、3版(2021年)で加えられたというのが興味深いところ。一方、三省堂国語辞典8版は「ぶり」の⑤で以下のように述べているといいます。

[俗][しばらくとぎれていたことについて]…以来。「君と会ったのはいつぶりかな・去年ぶり」(一九八〇年代からある用法)(14ページより)

三省堂国語辞典は新しい用法を積極的に取り上げることで知られていますが、この説明は7版(2014年)にはなく、8版(2022年)で加えられたもの。「誤り」ではなく「俗用」とされてはいるものの、これは実態として使用頻度が無視できないものになったのだと読み取るべきではないか? 著者はそう述べています。(12ページより)

「真逆(まぎゃく)」使いますか?

[質問]

よく見かける一方で嫌う人も多い、正反対を意味する「真逆(まぎゃく)」。使いますか?

[回答]

使う。定着した……44.4%

使うが、定着したとは言えない……11.3%

使わないが、定着はした……33.1%

使わない。定着したとは言えない……11.1%

(86ページより)

「真逆」を「使う」と言う人は55%と半数をやや上回る程度だったものの、「定着した」と答える人は4分の3を超えたといいます。

この「毎日言葉」のアンケートは回答者を無作為抽出して行う正式な世論調査とは性格が異なるようですが、とはいえ社会の傾向を一定程度反映してはいるため、正反対という意味で「真逆」を使うのはもはや一般化したと判断できそうだと著者。

「真逆」は2004年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされたことばで、その時点では新語扱い。2011年度の文化庁「国語に関する世論調査」では、「正反対のことを『真逆』という」ことが「ある」と答えた人が22.1%、「ない」人が77.4%。しかし20代以下ではすでに過半数を占めていたそうです。

本書で紹介されている今回のアンケートでは「使う」という人こそ5割強ですが、全体の4分の3超が「定着した」と認めています。そうした結果を受けて、「使わない人も認めるというところに、その定着が本物であることを感じます」と著者は記しています。

国語辞典での扱いも変化がうかがえます。2008年の6版で見出し語に「まぎゃく」を採用した三省堂国語辞典は、2014年の7版でも俗語としていましたが、2018年1月に出版された広辞苑7版では「全くの逆。正反対。『真逆のことを言う』」と、注記なしで普通に使われる言葉として掲載しています。岩波書店の辞典編集部の方に伺ったところ、「真逆」は「定着」したと認識しているとのことでした。(88ページより)

しかしその一方、「真逆」に強い違和感を抱く人もいるもの(私もそのひとりです)。

ちなみに毎日新聞用語集では「口語体で一般化している俗語も安易に使うことはしない」とされており、現状では「真逆」を無条件で通すということにはなっていないそうです。

ただし今後、俗語であるともいわない辞書が増えるなら、新聞の態度も変わっていくことになるのかもしれません。(86ページより)

このように、多くの方が気になっていたに違いない「ことばのモヤモヤ」が解消できるはず。気軽に読むことができ、多くのことを学べるおすすめの一冊です。

Source: 毎日新聞出版

メディアジーン lifehacker
2023年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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