『マーケティング「つながる」思考術 「こんなはずじゃなかった」と決別するために知っておくべき売上に至るまでの「点と線と面」』
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なぜ売れないのか?ではなく、なぜ買ってもらえないのか?考えるマーケティング思考術
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
マーケティングの現場においては、「期待していたほど売上が上がらなかった」というような不満や落胆の声がしばしば聞こえてくるものです。しかし、必ずしも施策そのものが悪かったのではなく、原因の多くは「医療ミス」にあるのだと主張するのは、『マーケティング「つながる」思考術』(池田紀行 著、翔泳社)の著者。
つまり、診断と処方のいずれか、または両方を間違うことによって「取り組む前から失敗する(期待する成果が得られない)ことが確定していた取り組み」なのです。
マーケティングの目的は「お客様に買っていただくこと」ですから、マーケターの仕事とは自社製品がお客様に買っていただけない理由(=病気)を正しく診察・診断し、その病気を最も効果的に治療することと言えます。(「はじめに」より)
にもかかわらずマーケティングの現場では、頭痛の人に胃腸薬が処方されてしまうような“医療ミス”が頻発しているというのです。
なおマーケティングを「お客様に買っていただくこと、および買い続けていただくことを頂上とした登山」と見立てた場合、頂上に登るルートは必ずしも1本とは限らないとも著者は述べています。
主要なルート(線)がマーケティングの流れであり、それぞれのルート上に存在する様々な障害物を乗り越えるための具体策が施策(点)であり、頂上までの複数ルートの設計がマーケティング戦略の全体像(面)を表します。(「はじめに」より)
そこで本書では、「いま取り組んでいる仕事は、どんな戦略の全体像(面)の、どのルート(線)に置かれた障害物を乗り越えるためのもの(点)なのか」を強く意識しながら仕事に取り組む方法を明らかにしているわけです。
しかし、そもそもマーケティンとはなんなのでしょうか? あえて原点に立ち戻るべく、きょうは序章「マーケティングとは何なのか」を参考にしながら、そんな“基本中の基本”を再検証してみたいと思います。
目的はお客様に買っていただくこと
期待する売上が得られないとき、「もっと売るために、もっと売上を上げるためにはどうしたらいいんだ?」と考えているとしたら、それは「頭が完全に“売り手発想”になっている証拠」だと著者は指摘しています。
売上はあなたが「売る」ことであがるのではなく、お客様が「買ってくださる」ことで得られると捉えましょう。期待するほど売上があがらない場合、「なぜ売れないのか?」ではなく、「なぜ買ってくださらないのか?」と考えるのです。(16ページより)
「どちらも同じことじゃないか」と思われるかもしれませんが、この視点の違いが大切。売り手目線の考察では、往々にして「お客様が買わない理由」を見逃してしまうからです。ちなみに著者は、「お客様に買っていただけない理由」として以下の項目を挙げています。
・ニーズそのものがない、もしくは小さい
・商品やサービスがお客様のニーズにフィットしていない
・商品やサービスのパフォーマンス評価(購入後の満足度)が低い
・価格が高い
・最適なチャネルに商品が配荷できていない
・配荷できているアイテム(SKU:Stock Keeping Unit)が少ない
・店内の商品配置がわかりづらい
・EC(デジタルシェルフ)での検索順位が低い
・店頭の在庫が切れている
・商品の存在が知られていない
・興味を持ってもらえていない
・商品の特徴を理解してもらえていない
・パーセプション(認識)がズレている
・ニーズが顕在化したとき、真っ先に思い出してもらえていない
・好かれていない
・信頼されていない
・ブランドイメージが悪い
・話題性に乏しい
・SNSの(ユーザーによる)投稿が少ない
・ネガティブなクチコミ(レビュー)が多い
・営業力が弱い
・競合が強い
・景気が悪い
・天気や気温が自社のマーケティングに不利
(16〜17ページより)
他にもたくさんあるものの、おおむねこんなところ。また、小売・サービス・外食などの店舗ビジネスの場合これら以外に下記が挙げられるようです。
・自宅や職場の近くにお店がない
・営業時間が短い(顧客ニーズにフィットしていない)
・看板がわかりづらい
・ファサード(外観)に開放感が足りず入りづらい(店内が見えない)
・駐車場がない、駐車台数が少ない、狭い、停めにくい、出しにくい
・店員の接客態度が悪い
・店内が不衛生
・店内が臭い
・店内が暗い(適切な照明になっていない)
・快適な室温になっていない
・周辺の人口が減っている
(16〜17ページより)
著者によれば、これらはお客様が商品やサービスを買わない(お店に来ない)代表的な理由。
いいかえれば、こうした「お客様が買ってくれない理由」を見つけ、それらの課題を解決することで「買ってくださる確率を高め、お客様の人数を増やすこと」がマーケティングだということです。(16ページより)
マーケティングを難しくしている要因
また上記は、「マーケティングとは人の営みを科学し、再現可能性を高めること」と表現することもできるといいます。
マーケティングは難しそうにも思えますが、つまるところ「人はなにに興味があり、なにに興味がないのか」「どういう人が、どういうときに、どんな商品やサービスを欲しくなるのか」など、人の気持ちを考える枠組みでしかないのです。
お店に来てもらうこと、試しに買ってみてもらうこと、継続的に買い続けてもらうことなどはすべて、お客様の「行動」です。
そうした「行動」を変えるためには、その行動のトリガー(引き金)となる「気持ち」を動かさなければならないということです。(18ページより)
マーケティングを専門領域とする著者は、25年にわたって大手企業300社以上の宣伝、PR、マーケティングの支援に携わってきたという人物、つまりここには、そうした活動のなかから得たノウハウが凝縮されてるわけです。売上を上げるためになんとか策を打ちたいと考えている方にとって、本書は大きな助けになるかもしれません。
Source: 翔泳社