『沢田研二』
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<書評>『沢田研二』中川右介(ゆうすけ) 著
[レビュアー] 小野島大(音楽評論家)
◆売れることで存在を証明
1970年代の歌謡曲界でもっとも光り輝いた存在としてジュリーこと沢田研二の名前を挙げる人は多いだろう。単なるアイドルや流行歌手の領域をはるかに超え時代を象徴するアイコンとして、社会現象にまでなったスーパースター。75歳になった今も現役で活動する。その彼の全盛期とも言える70年代の足跡を追ったのが本書である。
昨年上梓(じょうし)された沢田の評伝といえば島﨑今日子著『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒(こうぼう)』(文芸春秋)という好著があり、どちらも沢田本人への新たな取材はないという共通点がある。
60人もの周辺取材を行い、他者からの視点をふんだんに織り込むことで「見られることで成立したスター」としての沢田を浮き彫りにした島﨑作品に対して、本書は当時の雑誌や新聞、書籍など過去の文献資料を徹底的に掘り起こすことで、事実関係を整理し明らかにしていく。著者も含め語る者の主観や思い入れが強く出た島﨑作品と比べ、本書の筆致は常に冷静だ。特にザ・タイガース時代からソロ・デビューに至る経緯を描いた第1部は読み応えがある。
一貫しているのが、沢田のどちらかといえば受け身な姿勢だ。「オレがオレが」と自己主張するのではなく、スタッフやリスナーの思い描く理想やヴィジョン通りに振る舞い、その人が期待する「ジュリー像」、いわば、さまざまな思い入れをのみ込んだ「器としての沢田研二」であろうとする。
そんな生き方だから、多くの人に評価され愛されなければ意味がない。なのでソロになってからの沢田は「1等賞」にこだわり、売れることこそが存在証明だった。ソロ以降の沢田の足跡を追った本書の第2部以降は、ヒット・チャートや賞レース、紅白歌合戦などを舞台に同時代の歌手たちと壮絶な戦いを繰り広げ、ついに名実ともに頂点に立つまでが描かれる。それは保守的だった日本の歌謡界が沢田によって変わっていく過程でもあったのだった。
(朝日新書・1760円)
1960年生まれ。評論家・作家。著書『阿久悠と松本隆』など多数。
◆もう1冊
『山口百恵 赤と青とイミテイション・ゴールドと』中川右介著(朝日文庫)