『伝わる文章がすぐ書ける 接続詞のコツ』
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【毎日書評】相手に伝わる文章は「接続詞」の使い方次第ですぐに書ける!そのポイントは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『伝わる文章がすぐ書ける 接続詞のコツ』(前田安正 著、すばる舎)の著者は、朝日新聞 元校閲センター長、元用語幹事。現在は文章コンサルティングファーム「未來交創株式会社」の代表を務められているそうで、いわばことばのオーソリティです。本書はそのような立場から、「接続詞」に焦点を当てた一冊。
文章を書く際に接続詞を意識する機会はさほど多くないかもしれませんが、接続詞ほどマニアックで奥深い品詞はないのだと著者はいいます。事実、接続詞の定義は研究者によって異なるのだとか。しかしいずれにせよ接続詞は、「次の文をどういう形で結びつけるのか」という羅針盤のような役割を果たしているわけです。
文章を書く際の一番小さな単位が「文」です。
文がいくつか集まった言語作品が「文章」です。
文章を構成する文は、接続詞を通して、その意味するところが明らかにされます。
順接でつなぐのか逆接でつなぐのかによって、伝える側の視点が変わります。
接続詞は文章という海を航海するために必要欠くべからざる羅針盤なのです。(「はじめに」より)
接続詞をテーマにした書籍の大半は、たとえば「逆接」なら、そのカテゴリーに入る「しかし」「けれども」「だが」などをまとめて説明しています。そのため、ある特定の接続詞を調べたいときには、巻末の索引を確認しなければならなくなるかもしれません。
そこで、必要な接続詞をすぐに調べることができるよう、利便性に重きを置いている点が本書の魅力。困ったとき、すぐに役立ってくれるわけです。
第2、第3章は接続詞を辞書のように五十音順に掲載されているため実際に活用していただくとして、ここでは第1章「接続詞が与える印象の重要性」内の「接続詞と接続助詞」に焦点を当ててみましょう。はたして両者には、どのような違いがあるのでしょうか?
接続詞と接続助詞の違い
例:そのワインは安い。おいしい。(12ページより)
上記の2つの文章はそれぞれ独立しているため、「そのワインは安い」と「おいしい」の関係がはっきりしません。そもそも「おいしい」がワインのことを指しているのかが不明瞭だからです。
A:そのワインは安い。しかしおいしい。(12ページより)
このように「しかし」という逆接の接続詞をつけると、「安い」と「おいしい」の関係がしっかり見えてきます。さらに、「一般的においしいワインは値段が高い」とされる価値判断を逆転させてもいます。
B:そのワインは安いがおいしい。(12ページより)
こちらも文意は同じですが、「安いが」の「が」は接続助詞と呼ばれるもの。接続詞と接続助詞の文法的な違いは、文節で説明できるそうです。文節とは文の構成要素で、文を実際のことばとして不自然にならない程度に区切ったときに得られる最小のひとまとまり。それぞれ文節で区切ってみると、こうなります。
A:その/ワインは/安い。しかし/おいしい。
B:その/ワインは/安いが/おいしい。
(13ページより)
接続詞「しかし」は単独で文節となりますが、接続助詞「が」はそれ単独で文節になれないわけです。なお、接続詞と接続助詞を使った際の文章の違いは2つあるそう。(12ページより)
1. 接続詞を使ったほうが1文が短い
接続詞を使ったAは、最初の文が9字、次の文が8字で合計17字(句読点を含む)。一方、接続助詞を使ったBは14字です。
Aのほうが全体として長くなっていますが、接続助詞を使うと以下のように1文はどんどん長くなります。
例1
私の仕事は不規則なので、普段、家族との団らんがなかなか持てないので、夏休みくらいは家族とゆっくり過ごす時間がほしいと思うが、最近は子どもも大きくなってきたので、クラブ活動などで忙しいので、時間の擦り合わせが難しくなっているが、今年はクラブ活動が休みの時に何とか一緒に過ごせそうだ。(14ページより)
1文が長いため、同じようなことばを繰り返さねばならず、完結とはいえない文章になっています。では、これを接続詞を使って書き換えたらどうなるでしょう?
例2
私の仕事は不規則だ。そのため普段、家族との団らんがなかなか持てない。せめて夏休みくらいは家族とゆっくり過ごす時間がほしいと思う。最近は子どもも大きくなってきた。クラブ活動などで忙しく、時間の擦り合わせが難しくなっている。ところが今年はクラブ活動が休みの時に何とか一緒に過ごせそうだ。(14ページより)
こちらのほうが明らかに読みやすいことがわかります。文脈によっては、必ずしも接続詞、接続助詞が必要ないものもあるのです。(13ページより)
2. 接続詞を使ったほうが対比が際立つ
先のワインの例文を改めて比較してみましょう。
A:そのワインは安い。しかしおいしい。
B:そのワインは安いがおいしい。
(15〜12ページより)
Bはワインが「安い」「おいしい」という2つの要素を1つの文章に組み込んでいます。「安い」と「おいしい」がひとかたまりのように「安いがおいしい」と認識されるため、驚きは少なくなります。
一方、Aではワインが「安い」と、「おいしい」という要素は、それぞれ異なる文で語られています。それを「しかし」という接続詞が、「安い」という要素と、通常相反する「おいしい」という要素を対比させているのです。そのため、読み手の概念を逆転させる意外さを強調することが可能。これが接続詞による効果であるわけです。(15ページより)
いうまでもなく接続詞の役割は、文と文、ことばとことばを結びつけること。だからこそ、改めて接続詞に注目してみれば、文章をより豊かに展開できるようになるのです。
またそれは、ビジネスにおける重要な武器にもなってくれることでしょう。本書をデスクサイドに置いておいて活用すれば、キリッと明瞭な文章を書けるようになるかもしれません。
Source: すばる舎