『エヴァーグリーン・ゲーム』石井仁蔵著

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エヴァーグリーン・ゲーム

『エヴァーグリーン・ゲーム』

著者
石井 仁蔵 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591179437
発売日
2023/11/01
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『エヴァーグリーン・ゲーム』石井仁蔵著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

チェス頂点へ 四者四様

 囲碁や将棋と比べて、日本のチェスプレイヤーは格段に少ない。「レジャー白書二〇二三」によれば二〇二二年の将棋人口は四六〇万人、囲碁人口は一三〇万人。ではチェスは? 実はレジャー白書に統計さえない。

 だけど世界で見れば、七億以上もの人がチェスを楽しんでいるという。パリオリンピックにチェスを競技採用させようという働きかけもあったそうだ。

 マインド・スポーツとも呼ばれるチェス、けれど「心身にかかる緊張と重圧はフィジカルスポーツに比肩する」。八×八、六四マスの盤上で繰り広げられる、知力体力の全てを振り絞った戦いは、とてもエキサイティングだ。

 中心となる登場人物は四人。

 小学生の時に難病で入院、そこで同じ病室の少年からチェスを教えて貰(もら)ったトオル。

 超有名進学校に通うハルキは、チェスプレイヤーとして生きていくか迷っていた。そんな時一人の少女と出会い……

 全盲の冴理は、母の押しつけたピアノから逃げるようにチェスにのめり込んでいく。

 刹那的な生き方をしていた不良のツリザキ。ある日、チェスと出会い、暴力だけではない新しい生き方を知る。

 闘い方も、歩んできた道も、信じるものも、チェスにかけた思いも全て異なる四人が、一億円をかけたチェスの大会チェスワン・グランプリでぶつかる。

 カロカンディフェンス、ロンドンシステム、アクセラレイテッド、クイーンズギャンビット、アラピンバリエーション……それぞれの内容はわからないけれど、ここぞと言うときに繰り出される手は、必殺技みたいでかっこいい。

 最初から最後まで、脳にぶわっとアドレナリンが出たまま読みきった。チェスのことを知らなくても、何かに寝食を忘れて没頭した経験のある全ての人におすすめ。(ポプラ社、1870円)

読売新聞
2024年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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