『洲崎パラダイス』
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「洲崎パラダイス」と横に書いたネオンが灯をつけた」
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「色街」です
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東京、江東区の洲崎は明治時代、遊廓があったところ。もともとは本郷区根津にあったが、近くに東京大学が出来、大学の傍に遊廓があるのはまずいと洲崎に移転した。
芝木好子の『洲崎パラダイス』は、戦後、特飲街(いわゆる赤線)となった洲崎を舞台にしている。
「特飲街の入口の橋に、遊廓時代の大門の代りのアーチがあって、「洲崎パラダイス」と横に書いたネオンが灯をつけた」
このアーチの横にある一杯飲み屋に、地方から東京に出てきたものの、食いつめて行き場をなくした若い男女がやってくる。
蔦枝という女性は、気のいいおかみに住み込みで働かせてもらう。
男あしらいがうまく、たちまち中年の商店主と出来てしまう。その筈、蔦枝は以前、洲崎で働いていたことがあった。濹東の玉の井にいたこともあった。
一方、男の義治もおかみの紹介で近所のそば屋で働くことになる。もともと、気の弱い甲斐性のない男。蔦枝が中年男の囲い者になりそうなのを嫉妬しながら眺めるしかない。
いざとなると女は強い。色街で身体を売れば生きてゆける。それに比べると男は一度落ちてしまうと始末のつけようがない。この男女の対比が面白い。蔦枝は戦後強くなった女性を象徴している。
特飲街は昭和三十三年の売春防止法実施で姿を消した。この小説は三十一年に川島雄三監督、新珠三千代主演で映画化されている。