『王の綽名(あだな)』佐藤賢一著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

王の綽名

『王の綽名』

著者
佐藤賢一 [著]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784296118946
発売日
2023/11/13
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『王の綽名(あだな)』佐藤賢一著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

悪口・称賛…55人の逸話

 世界史を習っているとき、何とも不思議だったのだ。どうして○○王や、○○帝といった二つ名がついているのか。誰がつけたのか。本人は納得していたのか。

 本書の前書きに答えがあった。

「どうして綽名(あだな)がつくかといえば、同じ名前の王が多すぎて、区別がつかないからだろう」

 腑(ふ)に落ちすぎて腸が重い。これ、日本の徳川家にも採用して欲しかった!

 それぞれの特徴や生き様を表した五十五の綽名、これが面白い。ほぼ○○眼鏡なみの悪口あり、褒め称(たた)えるものあり。

 王冠がないことを揶揄(やゆ)してとも、頭頂部を剃髪(ていはつ)(河童状態)していたからとも言われる「禿頭(とくとう)王」。

 かと思うと「美髪王」もいる。求婚した相手と添い遂げるため、願掛けで髪を切らないと決めたハーラル一世。晴れて結婚出来た暁に伸ばし放題だった髪を整えてみたらこれが「美髪」だったという逸話。

 かっこいいのはウィリアム一世。「庶子公」からスタートし、イングランド王まで上りつめて「征服王」の名をゲットした出世魚。

 ひたすらイケメンだったとされる「美男王」は、同時に無口すぎて「鉄の王」「大理石の王」とも呼ばれた。

 そしてあの「ドラキュラ公」だ。そもそもドラキュラは、ルーマニア語のドラゴンのこと。それが何故悪名高き吸血鬼になったのか。

 「獅子心王」に「詩人王」「残酷王」「狂女王」「助平ジジイ」。好奇心をそそられる綽名たちにページをめくる手が止まらない。

 新聞の連載を集めたものなので、短くまとまっていて次々に読みたくなる。綽名からその人を知り、時代や人生に思いを馳(は)せる。

 ああ、この本が中学生高校生の頃にあれば。とっつきにくい世界史の年号にも、色づけができたかもしれないのに。(日本経済新聞出版 1870円)

読売新聞
2024年2月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク