沈黙していた過激派組織の爆弾事件 公安警察が舞台の極上ハードボイルド
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
半世紀近く逃亡を続けていた極左暴力集団のメンバーとおぼしき人物の突然の身柄確保が話題になった。
極左暴力集団や新左翼、爆弾テロリストといっても若い世代にはピンとこないだろうが、日本でもかつてはそうした一団が世を震撼させたことがあった。本書はまさにその恐怖を再現させた公安警察ものである。
平成から令和へと変わる数日前、神奈川県警の元公安刑事・吾妻が爆殺された。爆弾から、彼が長年追っていた日本反帝国主義革命軍(日反)幹部“悪魔のマシュマロ”こと枡田邦麿が関わっている疑いが出てくる。
三〇年間沈黙していたマシュマロが何故また今。その三〇年前、大学時代に、元日反メンバーだった講師の爆殺現場に居合わせた神奈川県警公安課の沢木了輔が女刑事の岩間百合と組んで今度の事件の捜査に当たるが、ろくに進まぬうちに新たな爆弾事件が。犯人は三〇年前のオペレーション関係者を狙ったものなのか。
物語は沢木の現在時の話が「私」、三〇年前に行われたオペレーションの顛末が「僕」という一人称で交互に描かれていく。
冒頭で公安警察ものと書いたが、「僕」の章では、少年時代から公安警察と関わりのある複雑な青春期を過ごしてきた沢木の若き日のスパイ活動の悲喜こもごもとともに、初恋(!?)の戸惑いや悦びも描かれる。
その意味では、青春ハードボイルドのタッチも濃厚というべきか。
公安警察ものとしては、何より極左暴力集団の犯罪捜査に当たる神奈川県警公安三課の刑事と彼らが操る協力者たちとの生々しい関係劇に注目。また公安部と刑事部の争いはもとより、神奈川県警と警視庁の仕掛けと裏切りの技の掛け合いも読みどころだ。こちらはオトナのハードボイルド・タッチ。
時代の転換期という背景設定を活かした大技も終盤に控えており、読後の満足は必定。著者の代表作と呼ぶに相応しい上々の仕上がりだ。