『わからない世界と向き合うために』
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「どう生きるか」に誠実に向きあう
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
以前、十代の人に人生相談をされた。その人はある芸術分野を専門に学ぶ大学に入学したところだった。将来その道のプロとして働きたいが、自分の腕一本で食べていく生き方には両親が反対している、という。
フレッシュな苦悩をまっすぐぶつけられてたじろいだ。「あきらめなければ夢はかなう」などと言う人もいるけれど、夢というのはそう簡単にかなうものではない。夢を現実にするにはすぐれた戦略と実行力が必要で、そのうえタイミングや運もモノを言う。がむしゃらならばうまくいくわけではないし、実力順に成功するということもない。
こんな場合はどう助言をしたらよいのかと長らく心にひっかかっていたが、中屋敷均『わからない世界と向き合うために』を読んで頭の中が整理できた。ごまかしのない正直な文章。読む人を見くびっていない誠実さ。しかも「夢見る力」を肯定してくれる。
夢に向かって進むうえで壁となるのが他者からの評価である。いくつもの項目に分けて数値化したものが正しい評価であるかのように扱われる世の中なので、自分の作ったものを世に問う人は、自分が数字に分解されて採点される不愉快さや不安を味わう。本書は多くの大人が口をにごしやすいこのあたりの機微も正面から描写している。
「どう生きるか」に単純明快な答えなど出ないけれど、他者が自分を否定的に見ることをおそれずに進もう。そんな勇気を出すための一冊だ。