『対怪異アンドロイド開発研究室』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『みんなこわい話が大すき』
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『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵著/『みんなこわい話が大すき』尾八原ジュージ著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
ウェブ発ホラー 極上2作
カクヨムとは、様々なウエブ小説を、誰でも「書ける、読める、伝えられる」プラットフォームである。デジタル度が浅い私は、「まあ、若い読者向けなのだろう」と思い込んでいた。
しかし、ここから生まれたいくつかの優れたホラー・エンタテイメントに出会って、その思い込みは晴れた。以前ご紹介した連作短編シリーズ『領怪神犯』に、昨秋ちょっとした社会現象まで引き起こした疑似ノンフィクション『近畿地方のある場所について』。どちらも眠れなくなるほど怖くて面白かった。
今回は長編小説を二作ご紹介したい。まずは『対怪異アンドロイド開発研究室』。危険な「怪異」を観測し解析するため、近城大学・白川研究室で開発されたアンドロイド、アリサが主人公だ。自律汎用(はんよう)AIを有する彼女の外見は二十代女性、モデルのようなスタイルの美女。作中で多くの恐ろしい現象に直面しても、もちろんアリサは怖がらない。そのためのアンドロイドなのだから。でも私たち読者はアリサが次々と怪異(幽霊がいる廃村、異界へ行く列車、顔を目にすると心を蝕(むしば)まれてしまう女など)に対峙(たいじ)するたびに、とても怖い思いをする。その都度けっこう損壊されるアリサの身の安全も心配になってくる。観測が進むにつれて、SFのエッセンスに民俗学的な要素も加わり、いったいどこに着地するのか、クライマックスまで目が離せない。
一方の『みんなこわい話が大すき』は、優しいジュブナイルの雰囲気で始まる。だが、怖い話が嫌いな小四の女の子・ひかりと、唯一の友達ナイナイという正体不明のもののエピソードと、霊能者・志朗貞明のもとに、ある心中死の真相を突き止めてほしいという依頼が持ち込まれるエピソード、この二つが交錯するとき、「ずっと一緒にいるべきものじゃなかった」呪われたものが招来する恐怖が浮上してくる。ウエブ世代の若い作家も、連綿と続く物語の歴史の流れのなかにいることでは、私たち紙世代の作家や読者と同じだ。一つの星の光を仰いでいる。そんな嬉(うれ)しい感慨を覚える二作だ。(2作ともKADOKAWA、1815円/1760円)