『佐久間艇長の遺書』
- 著者
- TBSブリタニカ編集部 [編集]
- 出版社
- CCCメディアハウス
- ジャンル
- 歴史・地理/伝記
- ISBN
- 9784484012018
- 発売日
- 2001/01/29
- 価格
- 1,026円(税込)
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十二時三十分 呼吸非常ニクルシイ
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「遺言」です
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明治43年4月、広島湾で演習中だった帝国海軍第六号潜水艇が沈没した。通風筒から海水が流入したことによる事故で、流入は止めたものの浮上はかなわず、佐久間勉艇長以下14名の乗組員全員が窒息死した。
欧米での同種の事故では乗組員が出口に殺到し折り重なって亡くなっている例もあったというが、引き揚げられた艇のハッチを開くと、全員が自分の持ち場についたままで息絶えていた。
立派な最期として大きく報じられたが、その後、艇長が身につけていた遺品の手帳に「佐久間艇長遺言」と題された文章が書かれていることがわかった。
この遺言の全文(写真版もあり)を収録し、事故の経緯や艇長の人となりなどの解説を加えたのが『佐久間艇長の遺書』(TBSブリタニカ編集部編)である。
38ページにわたって綴られた文章は、沈没の状況と、乗組員がどのように対処したかが、数値データをあげて冷静に記されている。
〈気圧高マリ鼓マクヲ破ラルゝ如キ感アリ〉〈十二時三十分呼吸非常ニクルシイ〉という部分もあり、空気が薄れていく中で書かれたことがわかる。そのため文字に乱れはあるが、内容は沈着そのものだ。
国内外の海軍関係者の間で今も語り継がれる佐久間艇長は、このときまだ30歳の若さだった。
手帳には天皇に宛てた「公遺言」と題した部分がある。部下の遺族の生活が困窮することのないよう配慮を願う内容で、若い艇長の人間性が垣間見える。