「六人の嘘つきな大学生」著者の最新作は実家を取り壊すことにした家族の危機を描いたミステリ

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家族解散まで千キロメートル

『家族解散まで千キロメートル』

著者
浅倉 秋成 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041145647
発売日
2024/03/26
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

突如、一家に降りかかった危機とは? ミステリで「家族」のかたちを見つめ直す

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 くすりと笑える展開の向こうに、日常の風景を一変させるカタルシスが待つ。

 浅倉秋成は学校生活や就職活動など、社会の小集団が当たり前のように受け入れる慣習を、謎解きミステリの趣向を取り入れた物語を通じて見つめ直す作家だ。最新作『家族解散まで千キロメートル』で作者が問うのは、家族のかたちである。

 一月一日、喜佐という一家が山梨県にある実家へ集まるところから物語は始まる。家の老朽化のため両親の転居が決まり、長女も結婚が決まったため、実家を取り壊す事にしたのだ。一月四日の引っ越しを前に家の片づけを一同が行っていると、見慣れない木箱が見つかる。その中にあったのは木彫りのご神体だった。それは丁度テレビのニュースで報道されていた、青森の神社から盗まれたご神体にそっくりだったのだ。

 状況から察するにご神体を盗んだのは一家の長である父らしいのだが、その父は行方をくらましていた。突如降りかかった危機を乗り越えるため、喜佐一家は青森の神社にご神体を返す事を決める。返却の期限は、神社で祭りが行われるまで。タイムリミットに迫られる家族が必死にご神体を届けるロードノベル、というのが本作の柱である。道中、様々な困難に見舞われる家族の姿がコミカルに描かれていく。同時に序盤で見られた喜佐一家のぎこちなさの正体が、過去の回想を交えながら浮かんでくる構成にも惹き込まれる。

 物語の中盤で真相当ての要素が不意に立ち上がってくる点にも着目したい。奇抜なシチュエーションを描いた後、謎解きの興趣を盛り込んで物語を加速させる手法は作者が得意とするところだが、本作でもその効力は発揮されている。解くべき謎が解かれた後に、読者は家族という集団の在り方に対する見方が変わっているだろう。ミステリによって浅倉秋成は世の中に飛び交う当たり前をぶち壊す。

新潮社 週刊新潮
2024年4月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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