『ういちの島 1』
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「凄まじく気持ちが悪いですね」と同業者にも言われる化け物が話題のマンガ『ういちの島』とは 都留泰作×武富健治 特別対談
[文] 新潮社
WEBマンガサイト「くらげバンチ」で連載され、話題になっているサバイバル・パニック・ホラー作品『ういちの島』。その単行本化を記念して、作者の都留泰作氏と、新しい教師像を描いた名作マンガ『鈴木先生』(双葉社)の作者・武富健治氏が特別対談を行った。互いを尊敬していて表現スタイルも似ていると話す二人が、『ういちの島』について語り合う。
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自分の経験は、寝かせて濾過することによって作品に反映できる
武富:『ういちの島』(新潮社/バンチコミックス)のジャンルはパニックホラーだと思いますが、細部のリアリティによって、作品世界にグングンと引き込まれます。読んでいるうちに、もはや他人事ではない感覚になる。あのリアルさは、都留さんが文化人類学の研究者だということが関係していますか?
都留:実は僕、最初は理学部の生物学科で生き物の研究をしていました。文化人類学には途中で転向したんです。
武富:なるほど。『ういちの島』は大学の研究施設から始まりますが、研究施設が妙にリアルなのも納得です。リアリティ溢れる舞台から、パニックホラーが始まるから、不気味さが助長されますよね。ちなみに都留さんは、ご自分の経験を作品に反映させることは多いですか?
都留:自分が経験したことを描くことによって、リアルさを出して、その世界をマンガのストーリーに入るための足掛かりにすることはあります。
武富:今回の『ういちの島』もそうですね。
都留:ですが経験は、経験した直後だとマンガにしにくいですよね。
武富:経験した直後だと生々しすぎますね。
都留:生々しすぎて、マンガにしても面白くはなりにくい。
武富:自分の中で濾過する時間が欲しいですね。
都留:濾過することによって、自分の経験がある種の別モノに熟成していく感覚がありますよね。
女性主人公がリアルなので感情移入できた
武富:『ういちの島』は都留さんの中で、どんなイメージから始まったのですか?
都留:最初に霧のイメージがありました。霧の中から得体の知れない叫び声がする。
武富:都留さんの描く霧からは、湿度や空気の密度まで感じられます。霧のシーンを読んでいる間、自分も霧の中にいる気分になります。
今までの都留さんの作品は、男の子が主人公の作品が多かったですが、今回は若い女性が主人公ですよね。読んでいると、若い女性の気持ちがリアルに思えるのですが、想像力で描いているのですか?
都留:そう言っていただけると嬉しいです。
武富:まあ、自分は大人の男性なので、女の子の気持ちのリアルなんて、分からないのですが。なぜかリアルさを感じました。主人公は比較的、男性を嫌悪するタイプの女性ですよね。
都留:そうですね。
武富:本来は男性視点からすると、厳しい女性じゃないですか。それでも大人の男性である自分が読んでも、感情移入がすんなりできる。
都留:女性が考えている本当のところは、我々男性には分かりませんよね。男に付きまとわれたらどう思うのか? もし自分が女性だったらこう思うのでは? という視点から描きました。ですから、女性が好きな男性を振り向かせるために何を考えるのか? という一般的な女心は自分には描けないと思います(笑)。
武富:それこそが都留さんワールドですね。実は僕も女性を描くときに、同じような感覚で描くのですが、我々が描く女性像ってまったく違いますね(笑)。
都留:たしかに(笑)。
武富:僕の場合どちらかというと、男性に都合がいい女性象になりがちです。僕が女性になったら男性に尽くすタイプなのかもしれません(笑)。
都留:尽くすけど、腹に一物あるみたいな……そこがリアリティになっていますからね、だから武富さんが描く女性は面白い。